鄭義信氏×真琴つばさ 真琴「感情が豊かになって入り込んじゃう」 異色舞台「歌うシャイロック」
シェイクスピアの「ベニスの商人」を全編関西弁の音楽劇に仕立てた異色の舞台「歌うシャイロック」が9日、京都・南座で開幕する。日本アカデミー賞最優秀脚本賞と岸田国士戯曲賞を受賞している映画、演劇のトップランナーで作・演出の鄭義信氏(65)と、ヒロインの1人ポーシャ役を演じる元宝塚歌劇団月組トップスターで女優、歌手の真琴つばさ(58)が語り合った。
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本作は2014年にソウルで初演し、17年に神戸で再演された。今回は上演規模を拡大し、主人公のユダヤ人金貸しシャイロック役の岸谷五朗はじめ俳優は全員初出演。台本も書き換えられ、岸谷が歌う新曲も加わるなど「大刷新」(鄭氏)された。そもそも「ベニスの商人」を関西弁の音楽劇化する大胆な企ては、どこから浮かんだのだろう。
鄭「『ベニスの商人』ってあの時代(16世紀末)が投影されているので、(ユダヤ人差別や終盤のシャイロックの扱いなどに対し)シェイクスピアさんに大胆に反論するっていうか。真琴さんのポーシャと(中村)ゆりちゃんのジェシカは、一方は自分で人生を切り開いていくんだ、新しい時代はきっと来るっていう、一方は男性に依存して、全てを投げ出して破滅していく。この対照的な2人(の女性像)とシャイロックを描ければ、すごく面白い作品になるんじゃないかな」
-書き直した部分について
鄭「今、戦争がすごく身近に感じる時代になってきたので、最初に書いた時よりも戦争(の影響)が色濃く。シェイクスピアさんの時代と現代を何とかつなげていきたいなと思っています」
-真琴さんの起用理由は
鄭「ポーシャって男の格好をして裁判所に乗り込んで行くので。全てを采配してわーっ、ブラボーっていう。周りから見てスッとした男性が求められる気がして、真琴さんは素晴らしく合っていた」
-前回のポーシャ役は剣幸さんでした
鄭「女性が男性役になるっていうと、宝塚の男性役の方っていうイメージがすごく強い。今回は関西弁で言うとすごく“シュッとした”ポーシャ」
-ポーシャの印象は
真琴「400年前の女性の先駆者として、ステキな人がいたんだっていう思いがあります。安心したのは、原作よりかなり年齢を上げていただいた(笑い)。だからすごくやりやすい!鄭さんマジックで新しい像になっているから。鄭さんは世界で二番目に細かい演出家だって聞いて…」
鄭「細かいっていうかしつこい(笑い)。世界じゃなくてアジアで二番目(笑い)。きっとアジアで一番の人がいるだろうということで、二番目にさせていただきました」
真琴「私がしつこい質なので、すごく付き合ってくださりそうで。あと、(人が)思ってる100万倍不器用なので、しつこい方じゃないとあきらめちゃうから」
鄭「大丈夫です。僕、全然さじを投げないタイプなので」
真琴「ところで、なんで大阪弁に?」
鄭「当時のベニスにユダヤ人街みたいなものもあって、(神戸の)南京町みたいなもんで、いろんな交流があって水の街でっていうと神戸とか大阪のイメージがあったので、関西にしてみたんです」
真琴「関西弁にすることによってとっても身近に、感情がすごく豊かになっていて、入り込んじゃう。大阪で記者の方が“新世界に迷い込んだシェイクスピア”って」
◆あらすじ ユダヤ人の金貸しシャイロック(岸谷五朗)は冷酷な取り立て故に町の嫌われ者。一人娘ジェシカ(中村ゆり)は父の金を持ち出してロレンゾー(和田正人)と駆け落ちをはかる。パッサーニオ(岡田義徳)はポーシャ(真琴つばさ)との恋の成就のためアントーニオ(渡部豪太)に金の融通を頼む。アントーニオはシャイロックから肉1ポンドを担保に借金するが、所有する全商船が難破。借金が返せなくなり、裁判で負ければ肉1ポンドを切り取られてしまう。裁判の行方とシャイロック父娘の運命やいかに…。
【日程】2月9~21日=京都・南座、同25~27日=福岡・博多座、3月16~26日=東京・サンシャイン劇場