【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】わん丈流“刺激的な古典落語”“安定感のある新作落語”

 落語家の三遊亭わん丈(40)。今週、都内で行われたコンテスト「公推協杯 全国若手落語家選手権」の本選で、初年度王者に輝いた。

 27歳まで福岡を拠点にインディーズ系ロックバンドのボーカルとして活動。そこから伝統芸能への大転身で、新作落語に生きた三遊亭円丈(2021年11月没)に弟子入りした。

 「師匠は、新作ばかりをやるのは茨の道だったと話していました。だから私には、新作も古典も両方やりなさいと言っていました」という教えを守り、「“刺激的な古典落語”、“安定感のある新作落語”ができるようになれれば」。わん丈流の逆説的ロジックだ。

 昨年8月の第1回予選を新作で突破し、本選では自分流に構成を組み立てた刺激的な古典「お見立て」で勝負。第2回予選通過者の立川吉笑(38)、第3回予選通過者の春風亭一花(36)を抑えた。

 わん丈が密かに狙っているのは、「『餅屋は餅屋』という言葉はない」ということを証明すること。つまり古典派は古典落語を、新作派は新作落語を、という垣根を低くすること、乗り越えることだ。予選も本選も新作で挑んだ吉笑、古典で挑んだ一花との違いを示した。

 「落語は人に喜んでもらうための手段なんです。予選を勝ち抜けただけでうれしかった。きょうはボーナスみたいなもの」と謙遜し、笑顔で賞金50万円を手に。「おかみさん(円丈夫人)に旅行券をプレゼントしたい。縞の着物を持ってないので、作ろうと思っています」

 同選手権は、公益推進協会の助成を受け、共同通信社主催で昨年8月にスタートした。

 日頃落語家に接している寄席スタッフや全国の落語会主催者などが、入門15年以内の若手落語家を推薦。上位15人が競い合う形を作り上げた。

 監修したのは落語家の古今亭志ん輔(69)。予選から本選まですべての審査に立ち会う過程で感じたのは、「新作をやるために落語家になっている人がずいぶん増えている。新作をやる人の濃度が濃くなっている」という現在の空気感。

 本選に挑んだ3人には「古典落語だろうが新作落語をやろうが、“落語という鎧”を着せてもらっているのは間違いない。先輩に感謝しつつ、謙虚に」と注文を付けた。

 来年度も開催する。

 ◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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