ウエストランド 貫き通した毒舌ネタは現代へのカウンター 描くは「6・5世代の逆襲」
昨年12月に開催された漫才No.1決定戦「M-1グランプリ2022」で、ファーストラウンド3位から大逆転王者となったウエストランドの井口浩之(39)と河本太(39)。優勝した一夜だけで100件超の仕事が増え、2カ月たった今もほぼ休みはなく、めまぐるしい日々を過ごしている。決勝初出場の20年大会で「一番ウケなかった」9位から、突き通した毒舌漫才で頂点にたった今、見えているのはどのような景色なのか。
井口は笑い、河本は涙した戴冠から2カ月。M-1前からピンの稼働が多かった井口は「ありがたいことに忙しくなりました。僕はその前から出てたし全然大丈夫。今の方がチャンピオンとして出るんでやりやすい。大変そうだと懸念してたチャンピオン像にはなってるんですけど、ゼロからじゃないんでありがたい」と、ひょうひょうと話した。
初決勝では9位に終わったが、露出は増えた。見てきた歴代王者の多忙ぶりから、優勝したくないという思いもあったようだが「今は優勝して良かったと、みんなが喜んでくれてるのを見ると思います。でも当然大変は大変。ちゃんとやらなきゃっていう感じです」と、王者の重圧を感じている。
一方で井口と比べ、露出が少なく格差を感じていた河本。思い描いたとおり2人で呼ばれる現状には満足だが、試行錯誤の日々だ。
「前は井口の陰に隠れて黙ってれば終わったんですけど、今は違う。面白いことを言うよう努めてはいるんですけど…。仕事も増えて楽しいですし、続くように頑張りたい」
決勝では2本とも「あるなしクイズ」の毒舌漫才。20年も同じスタイルで、さらに磨きをかけて挑んだ。「審査員全員と共演していて、他のファイナリストより少し知ってくれている状態でできたのは大きかった」と井口。ユーチューバーやR-1に文句をつけ、賛否両論もあったが「M-1は影響力ありますからね。20年の方がひどいこと言っているから、今回はウケたんだなっていう感じ」。悔しい前回大会をも糧にしていた。
毒舌ネタは、傷つけない笑いが流行する現代への「カウンター」だという。「結局グチの時事ネタなんです。その時にみんなが鬱屈(うっくつ)に思ってそうな、ウケるラインを探す作業」だと分析。そのため毒舌にこだわりを持っているわけではなく、「今後は変わっていくかもしれない。時代に合ったウケることを探していくだけです」と明かした。
所属事務所のタイタンにとっては初優勝となった。隔月開催の「タイタンライブ」で毎回新ネタを披露しており、「環境的にはすごく恵まれていると思います。爆笑問題の新ネタをずっと袖で見てきた。だから漫才で結果を出さないわけにはいかない」と事務所の大先輩への思いも口にしつつ、「爆笑問題の方が僕らよりもっとひどいこと言っているけど」と毒も忘れない。
2人は岡山県津山市出身で、中高の同級生。テレビ番組で活躍するダウンタウン、とんねるずらに憧れを抱いた井口が、河本を誘い上京した。それゆえに井口は「テレビに出続けたいですね、とにかく長く。それが一番」とテレビへの思いが強い。河本も「コンビでの仕事が続くように、やらかさないようにしたいです」と語った。
1月21日にABC系で優勝特典の初冠番組「VSウエストランド」(土曜、深夜0・05)がスタートし、「ここからちゃんと番組を持てるように頑張りたい」と井口。今後は三四郎やモグライダーら、切磋琢磨(せっさたくま)してきた同世代で番組が持ちたいといい、「今は先輩方がMCの番組がほとんど。僕らの時代に変えていかなきゃいけないと強く思います」。数年前は若手が第七世代ともてはやされたが「いわゆる6・5世代の逆襲ですね」と燃えている。
多忙の中でもタイタンライブの出演はやめない。「新ネタは正直面倒くさいですけど。ただ人前でネタをするのは好きなので」と河本。井口も「爆笑問題がやり続ける限り、やるしかない。迷惑ですよね(笑)。あんなレジェンドなのに出続けるので、僕らごときが卒業とはいかない」と先輩の背を追う。M-1優勝の目標を達成してなお、漫才にかける思いは変わらない。
◇ウエストランド 井口浩之(いぐち・ひろゆき=1983年5月6日生まれ)と河本太(こうもと・ふとし=1984年1月25日生まれ)のコンビ。岡山県津山市出身で中高の同級生。2008年11月に結成。コンビ名は同市のショッピングセンターから。フリーで活動を開始し、オーディションライブから預かり期間を経てタイタン所属。20年に初めてM-1決勝に進出し9位。22年に18代目王者。井口はサッカー、河本はキャンプが趣味で、YouTube発信にも精力的。