【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】好楽無双という時代が今、到来している
答えることをあらかじめ求められない解答者!矛盾するそんなポジションを、番組史上初めて手に入れた落語家である。
人気長寿番組「笑点」(日本テレビ系)のレギュラー解答者の三遊亭好楽(76)。最新メンバー、春風亭一之輔(45)の加入が新たな風味を番組に加えているが、いぶし銀の味わいも欠かせない。
「スタッフに、答えなくてもいいですから、って言われるんだよ」と、軽い感じでぼやく。事実なのか洒落なのか。真偽不明だがおかしい。
答えないでニコニコ座っていると、隣の席の林家木久扇(85)に「あんた、答えなさいよ」と労働を促される始末。そのやり取りがまた滑稽。逆隣に座る桂宮治(46)が動的芸人なだけに、静的好楽との対比も鮮やかだ(この並びを考えた方は偉いなぁ)。
司会者にとってはやりやすいのか、やりにくいのか。「あんなナチュラルで素のままテレビに出ている人はいない。番組を予定調和にしない。流れとか一切考えていないところが際立っている」とみる春風亭昇太(63)は「やり取りは楽じゃないですけど」とポツリ。本音だが、まったく嫌がってはいない。
好楽師匠の人となりを随分と取材したことがあるが、悪い評判が一切漏れてこない不思議。誰に対してもいい人だ。まったく癖のない芸人がここまで長期に渡り、第一線で生き残れるのだろうか。
息子で落語家の三遊亭王楽(45)に、興味深い分析を聞いた。
「売れている人は木久扇師匠にしても(笑福亭)鶴瓶師匠にしても売れる理由がある。うちの父親にはそれがない。作っているところがまったくないから理由が分からない」
たくらみがない姿勢は、前出・昇太発言「ナチュラル」「素」につながる。
若い時分から売れていて、「1クールですぐ終わりますね」と芸人仲間にからかわれたことがあるが、ラジオ・テレビのレギュラー番組が途切れたことがほぼない。「笑点」の解答者の座も一度、降板で失ったが、元の座に返り咲いた(解答者を辞めた五代目三遊亭円楽は、司会者として復帰した)。強運だ。 だが欲張ったりしない。自分の歩みを「うさぎと亀」の亀と位置付ける。最後の最後にレースを制する亀。まさに好楽無双という時代が今、到来している。(演芸評論家)
◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。