村上春樹氏「人の内面を描きたくなった」6年ぶり長編小説発売

 「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」などの作品で知られる世界的な人気作家・村上春樹氏(74)の新刊小説「街とその不確かな壁」が13日、発売された。長編小説は「騎士団長殺し」(全2巻)以来6年ぶりで、電子書籍も同時配信された。版元の新潮社によると、初版は30万部だという。

 同作の執筆は、新型コロナウイルスが広がり始めた2020年3月に始まり、2年半ほどで完成した。執筆がコロナ禍と重なったことについて「あとがき」で「何かは意味しているはずだ。そのことを肌身に実感している」と記している。

 村上氏は1980年、タイトルの酷似した中編「街と、その不確かな壁」を文芸誌に発表したが書籍化はせず、失敗作と位置付けていた。今作に向けてのインタビューには、「きちんと決着をつけないといけないと思った。年齢を重ね、腰を落ち着けて人の内面を描きたくなった」と思いを語った。

 新作は600ページ超の長編で3部構成。1部は中編を全面的に書き直した内容で、主人公の「私」が、10代の頃に思いを寄せた女性から聞いた高い壁のある幻想的な街に入り込む。2部では現実世界に戻り、福島県の小さな町の図書館長となって不思議な体験をする。

 中編は初期の代表作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(85年)の原型的な作品とも位置付けられているが、新作は全く異なった物語になった。

 村上氏は、執筆の中でコロナ禍の世界をどのように見ていたかについて「歴史の流れが変わっていくんだなと感じた。ウクライナで戦争があり、ポピュリズムが出て、民族主義が起こって。世界が動いているとの思いは強い。不安というかね」と発言。作中では「魂にとっての疫病」という言葉も登場する。「世界が不安定になってくると、狭い世界に逃げ込みたいという気持ちが出てくる。壁に囲まれた街のような、幻想的な世界に」。その良しあしは分からないと語るが、一方で「現実の外の世界との交流や行き来はすごく大きな意味を持っている」と語った。

 対面での交流が減る中、インターネットを介したSNSの影響力も増した。村上氏はその特徴を「短いセンテンスでどれだけ主張を通すか」だと指摘しつつ、小説の意義についてこう語った。「小説は長い時間性の中で何かを語る、何かを与える物語。何年か考えてやっと分かるということもある。僕はそういう物語の力を信じたい」。

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