【中村竜太郎のタイガー&ドラゴン】必見!落語家・月亭方正は掛け値なしに面白い
ヘタレ、すべり、「笑ってはいけない」で蝶野正洋に強烈ビンタを浴びせられる…、これが月亭方正さん(55)のイメージではなかろうか。でもちょっと待てよ、15年前に現名に変わったのは“落語家”になったからだ。月亭八方師匠に入門、れっきとした上方落語協会員である。
筆者は「今田耕司のネタバレMTG」はじめ数々の番組で共演、彼の本「落語はすばらしい」も読み、「落語が大好き。人生が変わった」と熱心に語る方正さんを知っているが、肝心の落語は未見。ようやく初めて、大手町三井ホールで「方正落語」を生鑑賞した。
出囃子はアニメ「学級王ヤマザキ」の主題歌「ヤマザキ一番!」。淡黄色の着物姿で高座に上がった方正さんはテレビのイメージとはまったく違う。人懐っこい笑顏で語り始めたのは方正さん夫婦の話。奥さんが天然というエピソードなのだが、どっかんどっかん爆笑を生んだ。新幹線のグリーン車に生まれて初めて乗った奥さんは「パパ、すごいねえ、グリーン車って!」と大興奮。東京から名古屋までの行程、到着するや「グリーン車って、やっぱりはやく着くのね」としきりに感心していたのだとか。
「まくら」でほぐれた観客が誘われたのは江戸期の商都、大阪。商売下手の道具屋・甚兵衛がある日古い太鼓を仕入れてくる。しっかり者の女房は「どうせガラクタ」と嫌味を言うが、大阪一の大店「鰻谷の住友」の番頭が「ご主人さまがその太鼓を気にいったから見せてほしい」と頼んできた…。演目は古典落語の「火焔太鼓」。軽妙なテンポ、ポンポン飛び出すギャグが小気味いい。演じる方正さんは心なしか楽しそうに見えた。
終演後あいさつすると、「今回新しいのをおろしました。(桂)南光師匠に稽古をつけてもらったんですよ」と語り、もとの志ん生の江戸落語を上方用に改作したものだという。いや、掛け値なしに面白かった。
方正さんは1年前に地元に寄席「西宮えびす亭」を開き、定期的に落語会を催し、ファンの裾野を広げている。笑福亭鶴瓶師匠も「方正はほんま頑張ってるわ」と応援しているという。一度彼の落語を見てほしい。方正さんのイメージが180度変わる。そして、きっと落語に興味が湧くだろう。