【中村竜太郎のタイガー&ドラゴン】寄る辺なき人にただ寄り添ってくれる大崎洋吉本会長の新刊

 松本人志が帯巻きに「一気に八回読んだ」とコメントを寄せた、大崎洋氏(吉本興業会長、69)の新刊「居場所。」(サンマーク出版)が6万部突破のヒットとなっている。新人時代くすぶっていたダウンタウンを見つけ、ともに歩み「3人目のダウンタウン」と称される同氏。本書は「生きづらさ」への処方箋的な言葉が並ぶが、同時に大崎氏の回顧録でもある。

 社会の激変についていこうと必死な毎日、合理性優先で完璧を求められる仕事、他者やミスを許さないギスギスした風潮…。私たちは抱えきれないほどのストレスの中にいる。相談できる人はいるのか。では、相談したからといって解決するものなのか。いや、友人や家族がいたとしても、また幸せそうに見えたとしても、人は孤独だ。だからこそ人は居場所を求める。

 大崎氏自身も劣等生で人付き合いが苦手、吉本入社後もダメ社員だったと明かし、自分の居場所をずっと探していたという。

 〈見るからにガラが悪くて暗そうで「誰も信じるもんか」と挑むような鋭い目つきというのが第一印象〉の若きダウンタウンと、自分の境遇が重なったという大崎氏は、彼らの活躍できる場所を手弁当でつくった。それが心斎橋筋2丁目劇場だった--。

 ページの間から昭和から平成にかけての時代の息遣いと匂いがして、甘く、苦く、そして懐かしい。筆者も読みすすめるうちにどんどん共感が高まり一気に読了した。

 特に印象深かったのは大崎氏の母親のエピソード。幼稚園の先生をしながら子ども二人を育てあげた大崎益子さん。自身が幾度もがんを患い、昔は嫁の仕事とされた舅姑の介護を尽くした我慢強いお母ちゃん。唯一の息抜きは、自宅の小さな池を眺めるわずかなひとりの時間。そんな折、大崎少年が「お母ちゃん、こんなん買ってきた、おもろいで」と目の前で動かしたのは、シンバルをちゃんちゃん鳴らすサルの人形。すると突然、母は大声で泣き出したという。「なんでおもちゃのおサルに泣かされとんねん」、涙をこぼし、笑おうとして、また泣いた母。不思議な情景だが、わかる気がする。心の澱が吹き出してしまったのだろう。

 本書は、誰をも啓発をしない。寄る辺なき人に、ただただ寄り添って肩を抱いてくれるのである。

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