【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】天どんが推す天丼と新作を味わう
新作落語を生涯手掛けた三遊亭円丈(2021年11月30日没)の高弟・三遊亭天どん(50)が今、挑んでいる。
11日に始まった、東京・上野鈴本演芸場中席の夜の部(20日まで)。トリを任されているが「初めてですねぇ」という全日ネタ出し、しかも自作の新作を9席(15日は休席)披露する試みだ。公演名も「天どんオール新作大進撃」と勇ましい。
「これまで作った新作落語は150席超くらい。そのうち、トリのときしかやらない“トリネタ”は30席ほどあります」という持ちネタから9本を厳選。「人情噺風ネタ、落語由来のネタ、ちょっと挑戦している危なめのネタですね」と内訳を明かす。
“天どん落語”は、何気ない日常の風景に着眼し、人間を描く。「ネタが古くならないように固有名詞は使わないですね。特殊なシチュエーションも設定しないし、変わったキャラクターが出てくることもない。普通の人が出てきて、発言や行動がだんだんずれていく感じをしゃべって、違和感を作り出します」というメソッドを貫く。
コロナが「5類」に移行し、約3年間禁止されていた客席での飲酒もオッケーになった。
さらに、天どんがトリを務めるときだけの吉例もある。
同所近くの天ぷらの名店「天寿ゞ」に電話をかけて「天丼弁当」をオーダーすると、会場に届けてくれるという。しかも通常2200円の料金が1800円(税込み)という特別割引。
「お客さんの入りと弁当の売り上げ、両方気にしなきゃきけないかもしれないですね」と本人は笑うが、客としては、ほどよくお酒をいただきながら天丼を食べ落語を見物できるという、至福の時間に浸りきるだけ。
「家まで持ち帰ってもおいしいですよ」と、天どんが推す天丼、逸品だ。
仲入り後(18時45分前後)に入場すると、「天どん幕見券」が1500円で発券されるというお得感もある。仕事終わりで駆け付けても、映画よりずっと手軽に楽しめる料金設定がうれしい。
ちなみに昼の部は金原亭馬治(45)がトリを務める。
古典の本寸法を味わえる昼席と、ちょっとトリッキーな夜席。鈴本演芸場が仕掛ける二面性が楽しめる10日間だ。
◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。