「このババアは元気だな」の温かみ、毒蝮三太夫 毒舌と平和 1969年開始ラジオが53年超続く理由
俳優・毒蝮三太夫(87)がパーソナリティーを務めるTBSラジオ「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」は、1969年10月からこれまで53年以上、続いてきた。“まむちゃん”こと毒蝮が町へ繰り出し、「元気なジジイだな」、「ババア、長生きしろよ」と毒舌で語り合う。変わらぬスタイルを続けてこられた理由を聞いた。
日曜以外、平日、月曜から木曜、毎週金曜、現在の月1回と放送頻度は少しずつ減っているが、弁舌の鋭さは変わらない。
「なんで続いてらっしゃるんですか?って言われるけど…。俺、続けてくれなんて言ったことねえんだから!今日、辞めてもいいんだから!それが五十何年続いてきちゃった」
訪問先の人たちとの掛け合いが売りの番組。最初の数年間は、毒蝮によれば「おばあちゃん、お元気ですね」といった具合で上品に話していたという。
これが、下町育ちの毒蝮からすると、どうも座りが悪い。「自分の言葉でしゃべってねえな」と思いつつ、地元の友人からは「あんなこと言わないじゃねえか、俺たちは」と冷やかされていた。
そんな中、一大事が起きた。73年8月、母ひささんが死去。番組に復帰し、しばらくたった頃、ひささんと同年代の女性が番組に参加した。しかも、とてもにぎやかだった。
「このババアは元気だな。おふくろは死んじゃったのに」
一言一句正確ではないかもしれないが、こんな内容の発言が放送に乗ってしまった。TBSラジオにはすぐに「ごまんと投書が来た」(毒蝮談)。今でいう大炎上だ。それでも「ミュージックプレゼント」を内包していた番組のパーソナリティー・近石真介さんや局、スポンサーは毒蝮さんを守った。単なる毒ではなく、温かみを持って接していたから、といった点から判断されたという。
「俺に対する理解が深かったんでしょう。『ババア』だとかなんだとか言うだけの人じゃありませんよ。よく聞いてくださいっていうことでね」
「ジジイ」「ババア」と呼ぶことも「相手をおとしめているような気持ちで言ってない」と強調する。ただ、「(自分は)けんかを売ってるわけじゃないよっていう気持ちが伝わってるからいいけど、普通は罵詈(ばり)雑言だよ。言っちゃいけないよ」と他の人が使うことは勧めない。
夢は「100(歳)になって『ババア』と言ってみたいね」。年齢の概念が覆される空間が広がりそうだ。
「人から嫌われることを言って、嫌われないっていうのはものすごい快感だよ?江戸っ子はそれが好きなんだよ。怒らないで相手が笑ったり、なにかごちそうしてくれたり、何かくれたり。これはね、面白いよ」
ラジオ界の生き字引は「そしたら世界の平和にもつながんじゃねえか?」と笑った。
◇毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)1936年3月31日生まれ、東京都出身。本名石井伊吉。12歳で舞台デビュー。俳優業では「ウルトラマン」のアラシ隊員役、「ウルトラセブン」のフルハシ隊員役で知られる。本名で活動していたが、盟友立川談志の助言で、日本テレビ系「笑点」出演時に芸名・毒蝮三太夫に改名。多方面で活躍する中、「マムちゃん寄席」開催にも尽力。7月7日に第17回が行われる。