谷川17世名人「記録破られるのは光栄」 藤井竜王の史上最年少七冠誕生に祝福

 谷川浩司17世名人
 名人戦第5局で勝利し、7冠を達成した藤井聡太新名人=長野県高山村の藤井荘(撮影・伊藤笙子)
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 将棋の藤井聡太竜王(20)=王位・叡王・棋王・王将・棋聖との六冠=が1日、渡辺明名人(39)を破り、4勝1敗で名人を初獲得し、七冠となった。これまでの最年少名人は1983年、谷川浩司17世名人(61)が樹立した21歳2カ月で、藤井新名人はこの記録を40年ぶりに更新。羽生九段が7タイトル時代の96年に全冠独占したのは、25歳4カ月だった。記録を塗り替えられた谷川17世名人が、新名人への思いと今後への期待を語った。

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 藤井聡太六冠が名人を獲得し、七冠達成、そして最年少名人の記録も4カ月更新した。

 破られた立場としては、一抹の寂しさも感じる。実際、1年前に藤井さんが順位戦でA級入りしたときは、自分の記録が消えるかもしれないことに複雑な思いもあった。

 ただ、それ以降もタイトル戦での連勝を2桁に伸ばし、成長を続ける藤井さんを目の当たりにし、実力、実績、人気も抜群、そして20歳にして将棋界を背負う立場の藤井さんであれば、破られるのは光栄なことと自然に思えるようになった。

 私の40年前の名人は、タイトル初挑戦ということもあり、まだ名人になるのは早い、とみられていた。藤井さんはこれでタイトル数も15。誰もが期待する中での名人である。

 あらためて記しておきたいが、藤井さんはAI(人工知能)で強くなったわけではない。もちろん、全棋士がAIを駆使して研究を進める中で、藤井さんの分析力と吸収力が優れていることは間違いない。ただそれよりも、実戦の未知の局面、答えの出ない難解な局面で、自分の力だけで考え抜いたその積み重ねで圧倒的な実力を付けたのである。

 今期の名人戦、渡辺明名人も出来が悪かったわけではない。令和に入り、平成までの人間の常識・読み・感覚と、AIのそれを融合させることにより、トップ棋士の実力は明らかに伸びている。ただ、藤井さんの進化は他の棋士の倍以上である。特にこのところの藤井将棋は、感覚に頼ることなく全ての変化を読み切ろうとするすごみさえ感じる。

青年でいられる時間大切にして

 さて、将棋の世界に限らず、第一人者は孤高になりがちである。藤井新名人には、20歳の青年でいられる時間も大切にしてほしいと願っている。

 そして、藤井さんを盤上で孤独にさせてはいけない。藤井さんの研究・読み・指し手、これらの意味を正確に理解し、それを踏まえた上で、最新形で戦うか、それとも綿密に準備した作戦で臨むのか。

 AIの時代になっても、人間対人間の戦いにファンは魅了される。対局者同士の盤上での濃密な対話によって、ねじり合いの優劣不明の中終盤が続き、充実した内容の棋譜が誕生する。

 藤井新名人の全冠制覇の可能性はかなりあると思っているが、他のトップ棋士の奮起も期待したい。

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 たにがわ・こうじ 神戸市出身、61歳。将棋の17世名人。タイトル獲得は通算27期。

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