【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】登場人物を女性化する“こみち噺”がこの夏2大冒険
入門20周年を迎えた落語家・柳亭こみち(48)。古典落語をしゃべる一方、登場人物を女性にしても違和感のない女性版“こみち噺”をこしらえて来た。
「(柳家)喜多八兄さんを見ろ、師匠の小三治を見ろ。みんな、その人にしかできない噺をやっている。それができないと飢え死にしちゃうんだ」。以前、師匠の柳亭燕路(64)に言われたことが、こみちの今を決定づけた。
最初の女性版は、大食いのそばっ食い・清兵衛さんを清子に置き換えた「そばの清子」。
「ラジオで聞いた(林家)たい平師匠が『あんな面白い“そば清”、生まれて初めて聞きました』ってLINEを送ってくれました」。寄席の楽屋で春風亭一之輔(45)に会うと、「おまえ、きょうも女版やるのか?」
同業者にも浸透している“こみち噺”を武器に、この夏、2つの大冒険に打って出る。
7月上席(1日~10日)、東京・浅草演芸ホール夜の部で主任を務めるが、名付けて「ベスト・オブ・こみち噺」。
「寝床~おかみさん編~」や「女版不動坊」など8日間(2日間は休演)、ネタ出しで挑む。
ひと月後の8月12日、東京・日本橋社会教育会館では「この落語、主役を女に変えてみた~こみち噺スペシャル」。自身が「らくだ」の改作「らくだの女」を手掛けるほか、弁財亭和泉(46)「死神婆」、春風亭一花(36)「井戸の茶碗~母と娘編~」、古今亭雛菊(29)「あくび指南 女版」というプログラムだ。
「ネタ出しをするのも初めて。女版に絞って寄席の主任を務めるのも初めて。お客さんが興味を持ってくださるか、離れるか、とても怖い」と本音をもらしつつも、「女版をやると、お客さんの笑い声の量が半端なく増えるんです」という過去の成功体験がこみちを後押しする。
これまで手の内に入れた“こみち噺”は30席。「女性の登場頻度を上げている噺が70席。合わせて100席ぐらい、女性が活躍する噺があります」
寄席の楽屋は、古典落語の名手が大勢いる世界。「私がご隠居さんをやってもかなわない」と感じたこみちは、「絶対に寄席で生き残りたいんです」という強い思いを支えに奮闘。「60代70代になっても寄席に顔付けされたい。“こみち噺”も広がってほしいですね」
挑み続けるこみち。まずは夏の成果を狙う。(演芸評論家)
◇渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。