【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】ねづっちは「チケットが取れない色物芸人」
今週、一般社団法人「漫才協会」の会長に就任したお笑いコンビ「ナイツ」の塙宣之(45)が、「あれ、欲しいですね」「買いたいですね」と欲していた芸がある。お笑い芸人、ねづっち(48)の「謎かけ芸」だ。
かつて、お笑いコンビ「Wコロン」として人気を獲得し、謎かけが出来上がった際に口にする「ととのいました」は、2010年の新語・流行語大賞のトップ10に入ったほど認知された。その破壊力は、今も色あせしていない。
客からお題をもらう。それを2、3秒頭の中で調整し「ととのいました」とネタを切り出す。締めは、衣装の襟元を少しだけ持ちあげながら「ねづっちです」とポーズを決める。
「あの『ねづっちです』という締めは発明です。謎かけの中身よりもすごい。芸人ならやりたくなる」と前出・ナイツ塙は絶賛する。
ねづっちの後に高座に上がり、謎かけを披露することもある塙は「ねづっちのです」と、拝借ネタだと暴露する。独自ネタなら「のぶっちのです」と堂々と名乗り、笑いを取る。
ねづっちはもう8年半にもわたり、毎朝ネタを作り、YouTubeで公開している。昨年夏までは登録者数約3万人だったが、YouTubeショートでネタを披露したところ、若者中心にバズった。今や登録会員数20万人超えという人気コンテンツに。
「ネタを作るのは毎朝のルーティーン。それをその日のうちに、寄席でかけちゃいます」という収穫即披露が強み。鮮度のいいうちに、客の反応を測るという。
そんなことができるのも、ねづっちが寄席芸人だからこそ。2019年、春風亭昇太(63)が会長を務める公益社団法人落語芸術協会の正会員になったことで、都内の寄席に顔付けされるようになった。7月上席(1日~10日)は新宿末広亭で、7月中席後半(16日~20日)は浅草演芸ホールで高座を務める。基本は漫談芸。その後客席からお題をもらい謎かけで締めるというスタイルで、常にウケる。
「多い時だと月に50高座、寄席を掛け持ちします」というねづっちは月に一度、単独ライブ「ねづっちのイロイロしてみる60分」で、日頃の積み重ねを成果にまとめる。毎回、満員御礼で、入場するには骨が折れる。「チケットが取れない色物芸人」なのである。(演芸評論家)
◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。