【中村竜太郎のタイガー&ドラゴン】ジャニーズ繁栄は歪んだ負の歴史の上に
先日のジャニーズ事務所の会見を見て私が感慨深かったのは、オーナーのジュリー氏と会社がジャニー喜多川氏の未成年への性加害を認めたことだ。
週刊文春は1999年に被害者の証言を得てジャニー氏の性加害を告発。私も当時、友人の元タレントから涙の告白を聞き、衝撃とともに怒りが収まらなかった。以降、ジャニーズ事務所の体質を批判し続けてきたが、そのつど嫌がらせや妨害にあうなど、この問題については当事者だと自覚している。
特別チームの調査報告にあるようにジャニー氏は顕著な性嗜好異常者(パラフィリア)で、20歳から80歳半ばまで、小中学生相手に間断なく頻繁かつ常習的に性加害を繰り返した。1965年の新芸能学院との裁判で少年への性加害が取り沙汰されたが、訴訟では事実認定されず終わった。1980年代には元フォーリーブスの北公次が著書『光GENJIへ』で性被害を告発するも、その事実を検証されるどころか、「危ない話」「でっち上げ」と流布された。その後の元タレントによる告白本も「悪質な暴露ビジネス」という扱い。直接当事者の声を聞けば、その真実性がはかれるはずだが、残念ながら報じようとする芸能メディアはほとんどなかった。
文春報道はジャニー氏の性加害が裁判所によって事実認定された初めてのケースだ。キャンペーンの間、私は知り合いの記者に声をかけ、“戦後最大の性犯罪”を連帯して報道してほしいと幾度となく依頼したが、最終的に動かなかった。日本と違い、報じてくれたのは海外メディアだけだった。永田町にも働きかけ、自民党議員が国会で質問してくれたが、それを取り上げたメディアはなく、私は無力感に打ちのめされた。それは取材協力者も同じで、「何をやっても変わらない」と絶望を生んだ。
ジャニーズ事務所は利益供与によってメディアをコントロールし、数十年間「性加害はない」「それを書いた記事は嘘」で通した。今回明白になったのは、嘘をついていたのは実は彼らだったということである。過去は簡単に清算できない。今後は口だけではなく、被害者の救済にまず取り組んでほしい。そして、自分たちの繁栄は歪んだ負の歴史の上にあることも知るべきだろう。