歌舞伎俳優の二代目市川猿翁（いちかわ・えんおう、本名喜熨斗政彦＝きのし・まさひこ）さんが１３日に不整脈のため８３歳で死去したことが１５日夜に発表されてから一夜明けた１６日、息子の九代目市川中車（香川照之＝５７）と孫の五代目市川團子（１９）は京都・南座で「九月花形歌舞伎『新・水滸伝』」に予定通り出演した。猿翁さんが築いた壮大なエンターテインメント作を熱演。観劇したファンの中には、中車の姿に感涙する人もいた。

　演目は２００８年に猿翁さん（当時、三代目市川猿之助）が演出・美術監督を手がけて歌舞伎化し、初演されたもの。創造活動の集大成「猿之助四十八撰」にもラインアップされている。上演前に「スーパーバイザー・市川猿翁」とナレーションが流れると、「三代目！」「澤瀉屋！」と大向こうがかかり、客席から拍手が起こった。

　中車は悪党を束ねる役で、頭領らしく落ち着いた構えで熱演。澤瀉屋をはじめとした大勢の仲間に囲まれ存在感を発揮した。團子は正義を貫く青年を力強く演じ、大きな拍手を受けた。劇中には猿翁さんが復活させた宙乗りなどの「ケレン」と呼ばれた華やかな演出も多数登場した。

　名古屋から訪れた澤瀉屋の女性ファン（５８）は観劇後、「お父さんがお亡くなりになったと聞いて、中車さんの力の入りように胸がいっぱいになった。きょうは團子さんを見に来たが、中車さんにこんなに泣かされるとは」と涙ながらに語った。兵庫県・姫路在住の女性（６３）は「お父さん（猿翁さん）に親子の縁を拒絶されたと聞いたけど、ここまでがんばってきてよかった。感慨深い」。歌舞伎を初めて見たという高校生２年生は「想像の何倍も迫力があった」と、猿翁さんが広めた派手な演出に魅了されていた。

　関係者によると、中車と團子は１４、１５日も変わらずに舞台を勤めたというが、中車は１８日の終演後に予定されるアフタートークショーを欠席する予定。團子は２１日のトークショーに出席するか未定という。