元妻・浜木綿子 市川猿翁さん追悼談話「本当に良く頑張ってくださいました」「澤瀉屋一門をお見守りください」

 「スーパー歌舞伎」の創設者で宙乗りなどの演出を復活させ人気を集めた歌舞伎俳優の市川猿翁(いちかわ・えんおう、本名喜熨斗政彦=きのし・まさひこ)さんが13日午前6時55分、不整脈のため東京都内で死去した。83歳。元妻の女優・浜木綿子(87)は談話を発表し「偉大なる歌舞伎役者、安らかに」と悼んだ。長男の九代目市川中車(香川照之=57)、孫の五代目市川團子(19)は京都・南座で「九月花形歌舞伎『新・水滸伝』」を気丈に勤めた。葬儀は家族葬で、後日お別れの会を開く。

 歌舞伎の可能性を押し広げてきた革命児がこの世を去った。猿翁さんは「澤瀉屋(おもだかや)」の中心的な存在として古典を継承、発展させる傍ら、新たな作品を創造。宙乗りなどスペクタクルな演出は、当時の保守的な歌舞伎俳優や劇評家から酷評されることもあったが、自身のスタイルを通し続け、次第に宙乗りは歌舞伎の演出として認められていった。

 86年には、現代劇と古典歌舞伎を融合させた「スーパー歌舞伎」を初上演。従来の歌舞伎とは異なる魅力を放つ舞台は、多くのファンを獲得してきた。

 03年に脳梗塞と診断されて以降、療養生活に入っていたが、舞台への情熱、復帰への思いが衰えることはなかった。12年に二代目猿翁を襲名し、一時復帰を果たしたものの、晩年は寝たきりの生活になっていたという。

 私生活は波瀾(はらん)万丈だった。65年に結婚した浜との間に、長男の中車が生まれたが、日本舞踊家で女優の藤間紫さん(09年に死去)とW不倫の関係となり、68年に離婚。中車とは絶縁状態になった。

 それでも、11年に行われた「四代目猿之助、九代目中車」の襲名披露会見には不自由な体を押して出席。息子と45年ぶりに和解した猿翁は、会見で「浜さん、ありがとう。恩讐の彼方に、ありがとう、ありがとう」と別れた妻へ心からの声を漏らした。

 浜は闘病の末に旅立った元夫を「本当に良く頑張ってくださいました」とねぎらい、「これからは泉下より中車、團子、澤瀉屋一門をずっとお見守りください。偉大なる歌舞伎役者、安らかに、お休みくださいませ」と敬意を表して追悼。「私は、今度こそが、本当のお別れでございます」と惜別の言葉を送った。

 おいであり自らの後継者だった市川猿之助被告が、自身の弟である市川段四郎さん夫婦の自殺をほう助したとして起訴されるなど、激震が続く澤瀉屋。巨星は、さまざまな思いを胸に込めて天へと旅立った。

 ◇市川猿翁(いちかわ・えんおう=本名・喜熨斗政彦)。1939年12月9日、東京生まれ。47年、三代目市川團子として初舞台。63年に三代目市川猿之助を襲名。宙乗りなどの演出を使う「猿之助歌舞伎」で一世を風靡(ふうび)し、スーパー歌舞伎も創造。2003年11月に脳梗塞を発症し舞台から遠ざかったが、12年6月に二代目市川猿翁を襲名。7月には舞台復帰した。市川中車は長男。00年に紫綬褒章、10年に文化功労者。宙乗りは5000回を超え、ギネスブックに登録された。

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