“泣き声”で紡いだコロナ禍のリアル 映画「東京組曲2020」女性の泣き声が企画のキッカケ
コロナ禍の日々を切り取った映画「東京組曲2020」が5月から各地で順次公開され、静かな反響を呼んでいる。20人の俳優が実際に体験したことを元に各自、撮影した映像を、企画・監修も兼ねた三島有紀子監督(「しあわせのパン」、「幼な子われらに生まれ」など)が組み上げ、20人の実生活に基づいたリアルを、女優・松本まりかの“泣き声”で紡いだ。異色のドキュメンタリー映画について、三島監督と20人の俳優の1人・加茂美穂子に聞いた。
カメラ、インタビュアーが撮影対象に積極的に関わることで真実の姿を引き出す作品を「シネマヴェリテ」という。コロナ禍による生活の困窮や、親しい人との別離。本作では20人の俳優が、実体験を元にドキュメンタリータッチで当時を映し出す。課せられた共通のルールは「明け方に女性の泣き声を聞く」ことだけ。20の物語の鍵となる「泣き声」を松本が担当した。
三島監督は、企画を思いついたのが、緊急事態宣言で日本中が不安に陥っていた中での自身の誕生日だったと明かす。午前4時、どこからともなく聞こえてきた女性の泣き声に「最初はどうしたんだろうと思っていたんですけど、だんだん、いろんな感情に見えてきて」と明かした。
「もしかしたら大切な人を亡くしてしまった泣き声なのかもしれないし、会いたいけど会えないっていう悔しさなのかもしれない。理不尽なことに対する怒りかもしれない」
普段なら聞き逃していたかもしれない泣き声。窮地に立たされているが故に、想像力は膨らんでいった。
ある俳優は疲れ切った顔で、ある女優は困惑の表情で、コロナ禍に振り回された1日を終えた明け方に「泣き声」に耳を澄まし、それぞれのリアルな感情を見せる。
同作で夫との日々を記録した加茂は「撮ることも含めて、全部を任せられていたので」と、初めて経験するパターンの撮影を回想した。精神的に落ち込みを見せていた夫との二人三脚をカメラの前で公開したが「自分をさらけ出すって、一番怖いことだったりするんですよね」と述懐。自身の感情や演者ではない夫の姿を撮影することに、葛藤もあったことを明かした。
手探りの撮影を終え、女優としての手応えを感じたのは公開後だったという。「映画を見てくれた方が『映画で泣いた後、私は自分が泣きたかったことに気付けた。ああ、そうか。泣きたかったんだな』って」。コロナ禍の時期に体当たりで挑んだ作品が、観客の心を揺さぶっていた。
「東京組曲2020」は大阪のシネ・ヌーヴォXで公開中。その後は10月6日に北海道・函館シネマアイリスで1日限定上映。11月に名古屋のシネマスコーレで公開される。函館では三島監督が舞台あいさつを行う予定。