アレック・ボールドウィン“ノーギャラ”ナレーション 伊東英朗監督あぶり出す米の放射能汚染

 ナレーションの収録を終え笑顔のアレック・ボールドウィン(右)と伊東英朗監督
 旧ネバダ核実験場前でリポートする伊東英朗監督=米・ネバダ州
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 元テレビ局ディレクターの伊東英朗監督(63)によるドキュメンタリー映画「サイレント・フォールアウト~乳歯が語る大気汚染~」が、10月8日に米ニューヨークで開催されるハンプトン国際映画祭で特別上映される。「放射線を浴びたX年後」シリーズの第3弾で、米国での核実験による放射能汚染がテーマ。ナレーションは大物俳優アレック・ボールドウィン(65)が担当した。伊東氏は米国での関心が広がる「きっかけをつかめれば」と期待を込めている。

 伊東氏は過去2作で、太平洋の核実験で被曝した日本のマグロ漁師たちの被害を取り上げた。今作では渡米し、1950~60年代にネバダ州で行われた核実験による「見えない放射性降下物」の被害を膨大な文書と、被曝者や研究者ら30人のインタビューで追跡。子供たちの被曝を調べるため女性たちが始めた「乳歯調査」の分析結果が歴史を動かしたことなどに迫った。

 クラウドファンディングで製作した重いテーマの作品に「レッド・オクトーバーを追え!」や「ミッション:インポッシブル」シリーズで知られるボールドウィンが参加することになったのは、取材対象となった研究者からの紹介で。「アレックさんは学生時代から放射能問題に取り組んでいたそうで『協力したいと言っている』と伝えられました」。

 ギャラは一切払えないことも伝えたが「ボランティアだから」とナレーターを快諾された。5月末にNYで行われた収録後、「正式に僕にオファーしたら(ギャラは)1億円だよ」とジョークを飛ばされ冷や汗をかいたようだが、「本気で一生懸命にやってもらった」と感謝する。

 作品であぶり出された放射能汚染の実態は米国人のボールドウィンにも衝撃を与え「自分は、この事実を知らなかったが伝えないといけない。できることは何でもやる」との言葉ももらったという。実際に頼もしい理解者の尽力もあってハンプトン国際映画祭での特別上映が決定。上映後のシンポジウムには一緒に登壇することになっている。

 伊東氏が核実験による被曝問題に取り組み始めて19年。愛媛・南海放送のディレクターとして数々のドキュメンタリー番組、映画を製作し、上映活動も行ってきたが「何も変わらなかった。福島(第一原発事故)が起こっても何も変わらない」。ジレンマを抱え、出した結論が「核の問題の本場である、アメリカでうねりを作ること」。米議会を動かし、日本に波及させることが目指すところだ。

 今作はその第一歩。11月にはセントルイス国際映画祭で招待上映される。米国で行った小規模な試写会での真剣な反応に手応えをつかみつつも「小さい上映だけしていても事実は広がっていかない。映画祭で現地メディアにアプローチして、アメリカで広がるためのきっかけをつかみたい」と展望を明かす。

 現地で訴えたいことを聞くと「単純なことです。核兵器を持つために自分の家族や子供たちの命、健康が損なわれていることを皆さん知らされてないですよ、核兵器は誰のためのものですか?それを考えてもらいたい」。迷いなく言い切った。

 ◆伊東英朗(いとう・ひであき)1960年9月15日生まれ、愛媛県出身。同県の南海放送ディレクターを経て2021年に独立。04年に太平洋核実験によるのべ20万人を越える日本のマグロ漁師の被曝を知り、番組制作を開始。日本テレビ系「NNNドキュメント」で5本の番組を放送。12年、映画「放射線を浴びたX年後」を全国で公開。15年に「-X年後2」公開。日本民間放送連盟賞優秀賞、ギャラクシー賞大賞などを受賞。

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