両親に向精神薬を服用させ自殺を手助けしたとして、自殺ほう助の罪に問われた歌舞伎俳優の市川猿之助被告（４７＝本名・喜熨斗孝彦＝きのし・たかひこ）の初公判が２０日、東京地裁で開かれた。猿之助被告は起訴内容を認め「申し訳なさを一生背負う」と謝罪。事件以前から自殺願望を抱えていたことも告白した。また、供述調書から、歌舞伎への復帰意欲も明らかになった。検察側は懲役３年を求刑し、即日結審。判決は１１月１７日に言い渡される。

　濃紺のスーツにネクタイ姿。保釈時には伸びていた髪は、きれいに切りそろえられていた。入廷した猿之助被告はマスク姿で一礼をしてから着席。証言台で裁判長に職業を問われた際には「歌舞伎俳優です」と静かながら確かな口調で答えた。

　起訴状によると、猿之助被告は目黒区内の自宅で５月１７日、自殺を手助けするために、父で歌舞伎俳優の市川段四郎さん（当時７６）、と母・延子さん（同７５）に向精神薬を服用させ、同日から翌１８日にかけて死亡させてたとしている。

　“一家心中”のきっかけとなったのは、５月１８日発行の一部週刊誌が報じた、猿之助被告の性加害やハラスメント疑惑。関係者から記事の内容を知らされ「歌舞伎の仕事はもうできない」と考え、両親に自殺すると伝えた。「舞台はどうするのか」などと説得されたが、最終的には延子さんが「あなた一人で逝かせるわけにはいかない。私たちも一緒に逝く」と応じたという。家族とのやりとりを振り返る際には、涙を拭う場面もあった。

　猿之助被告は、以前から自殺を考えることがあったことも告白。過去に段四郎さんが歌舞伎俳優として冷遇され、精神的にも追い詰められている姿に「自分がいなくなれば」という思いが膨らんだという。

　法廷では週刊誌報道の真偽については語られなかったが、報道をきっかけに「いろんなものが積み重なってきていたが、地獄の釜のふたがバカンと開いた」と説明。冷たくなった両親の顔から、ポリ袋を外した瞬間を「とても正気ではなかった」と振り返り「不肖の息子で申し訳ない。神仏を信じているので毎日供養しています」と後悔を口にした。

　検察側からは「自分には歌舞伎しかない。許されるなら歌舞伎に関わり舞台に立ちたい」との供述調書が読み上げられた。事件後、再度自殺を考えたことがあったとしつつも、最終意見陳述では「僕にしかできないことがあれば、させていただき、生きる希望としたい」と復帰を見据えて前を向いた。