【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】談志師匠は死後も幸せな落語家

 2011年11月21日、家元・立川談志師匠が死去した。今年は13回忌。家元から現役感が失われないのは、弟子たちが寄ってたかって家元のエピソードを高座でネタにするからだ。

 ニューアルバム「金ぇ~(マネー)」が命日に発売される。家元の言葉をラップ調の歌詞としてよみがえらせた。

 爆笑問題の太田光(58)は「天下の立川談志が、死んだくらいでおとなしくなるわけないと思ってた」「相変わらずのしゃがれ声。元気だなぁ。こう叫んでいるようだ。『死んでも忘れさせてやるもんか』」と、色あせない存在感をたたえる。

 「談志2REVOLUTION(ダンシダンシレボリューション)」というプロジェクトがあった。家元のトークをラップに乗せる試みで、生前2枚のマキシシングル「アメリカ」「国会」をリリースした。そのプロジェクトの復活だ。

 家元の長男で談志村役場の松岡慎太郎社長がいきさつを明かす。

 「談志が晩年、映像を自撮りしていました。体調の悪さを愚痴ってるのかと見たら、落語や芸術について語っていた。その言葉を歌詞に使っています」

 元の動画も付属DVDで楽しめる。

 収録曲は「金ぇ~」「嘘くせぇ」など全5曲。政界の暴れん坊「ハマコー」こと浜田幸一さんに捧げた「ハマコー」だけはスローバラードで、「ハマコー」の素顔を愛と毒舌で歌い上げているという。

 「ダメ元で、御子息の元防衛大臣浜田靖一先生に音源を送ったら、秘書の方を通じてい『どうぞ使ってください』と許諾もいただきました」(松岡社長)

 談志13回忌の今年は落語立川流創設40周年にも重なり、注目度は倍加する。

 一門の真打ち31名と二つ目22名に野末陳平、毒蝮三太夫、高田文夫を加えた総勢56名による書き下ろし「シン・談志が死んだ 立川流はどこへ行く」(小学館)が命日に発売される。志らくは「師匠」(集英社)を、談笑は「令和版現代落語論~私を落語に連れてって~」(ひろのぶと(株))を出し、家元の息遣いを消さない。今月21日には、東京・よみうりホールで「談志まつり2023」が開催され、一門が集う。

 寄ってたかって語り継がれる家元。その周囲はいつも騒々しい。死後も幸せな落語家だ。(演芸評論家)

 ◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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