【山田美保子のミホコは見ていた!】お笑いファン必読「M-1はじめました。」
本が売れない時代に「大反響!!」「発売前重版決定!」「面白い!」「一気読みの声、続々」と広告に景気のいいコピーが並ぶのが谷良一氏著「M-1はじめました。」(東洋経済新報社)だ。「M-1」とはもちろん「M-1グランプリ」のこと。帯に一文を寄せたのは島田紳助氏で「M-1は、私と谷と2人で作った宝物です」とある。
2011年に表舞台から去った紳助氏の「M-1」への熱き想いを御存知の方は多いと思う。だが、そもそも吉本興業の上司から漫才を盛り上げるように言われた谷氏が「知恵を貸してください」と紳助氏の元を訪ねたことがきっかけだと知る人は少ないだろう。
私は構成に名を連ねていた「恋のから騒ぎ」(日本テレビ系)のプロデューサーでもあった谷氏に番組放送中、たいへん世話になったが、その後、氏が現場を離れ、管理職となり、崖っぷちから起死回生の漫才復興プロジェクトに関わっていたとは知らなかった。紳助氏は「私がライダーで谷がメカニック、2人のチームでした」と言い、双方が裏と表で大変な苦労をしたと明かしている。
演者が演者を審査することや、点数をその場で公開すること、賞金を1000万円にすることなど、いまでは当たり前のスタイルを作り、実現させたのも2人だというわけだ。
近年は一回戦の結果から話題に上り、大会のために結成されたコンビがニュースになる。決勝では優勝コンビが決まる寸前から担当マネジャーのケータイが鳴りやまないという“M-1ドリーム”も有名で、年末の風物詩であり巨大ブランドとなったのが「M-1」。文化としても定着したからこそ、改めて当時の想いや狙っていたことをちゃんと文字にして伝えたいと考えた谷氏と出版社の間で今年初めにプロジェクトが立ち上がったそうだ。
芸人の名前はもちろん、各テレビ局のカリスマプロデューサー、審査員を務めた著名人らも登場する“ギョーカイ本”ではあるのだが、「漫才・冬の時代」から漫才プロジェクトを命じられた“窓際”社員がたった一人で挑んだ闘いが綴られたビジネス本ともいえる。
帯のみならず、5ページにも及ぶ長文を寄せた紳助氏のあとがきも笑って、泣ける。「M-1グランプリ」を作った“もう一人の男”谷良一氏著「M-1はじめました。」、必読だ。