伊集院静さん悼む 不条理の中を生きていく、だからこそ、『哀しみには終わりがある』
作家の伊集院静(本名・西山忠来=にしやま・ただき)さんが24日、肝内胆管がんのため死去した。73歳。女優で妻の篠ひろ子が同日、本名の西山博子名義で報道各社に向け「かねてより治療をしておりましたが、残念ながら回復に至りませんでした」と報告した。伊集院さんは10月初旬にがんの診断を受け、治療に専念するため執筆作業を休止していた。通夜と告別式は近親者のみの家族葬で執り行われる予定。
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多くの作家に愛された東京・神田駿河台の「山の上ホテル」が来年2月で休業する…というニュースが今年10月に流れた時、伊集院静さんの顔が脳裏にふと浮かんでいた。
2015年、仙台在住の伊集院さんが東京の定宿とした同ホテルで密着取材したことがあったからだ。それから1カ月、その伊集院さんがこの世を去ったという報を聞き、8年の時を経ても、膨大な言葉が整理し切れないまま渦巻いている。
伊集院さんへの取材は15年2~3月に「それでも前へ進む。」と題したデイリースポーツ紙面の連載となった。内容は「2つの震災」について。伊集院さんが仙台に移住した1995年に発生した1・17阪神・淡路大震災と、自身も被災した11年の東日本大震災にまつわる思いを聞き書きさせていただいた。
そこに通底したテーマは「死」であり、その運命を受け入れながらも一歩を踏み出す「再生」だった。
仙台の自宅で庭の掃除をしてくれていた女性の一人娘が3・11の津波にさらわれて亡くなったこと。93年、落馬によって意識不明となり、24歳の若さで亡くなった競馬騎手の岡潤一郎さん…。身近な人たちの死と、残された者が立ち上がっていく姿を熱く語った。
そこに、27歳の若さで早世した前妻の女優・夏目雅子さんの思い出も去来していたかもしれない。「私にとって家族の死というものは自分のテーマでもあるから」。伊集院さんは語った。「理不尽なことや不条理なことにあふれた世の中を私たちは生きていく。だからこそ、『哀しみには終わりがある』」とも。
全国の競輪場で勝負する「旅打ち」の話も聞いた。人生は旅。そして、73年に渡る波乱万丈の旅を終えた伊集院さん。ご冥福をお祈りします。(デイリースポーツ編集委員・北村泰介)