白井貴子 全てセルフプロデュースで作り上げたロックの女王 女子ならではのロック作ろうと
1980年代に「ロックの女王」と称されて人気を博したシンガー・ソングライターの白井貴子(64)が85年に発表したアルバム「FLOWER POWER」(以下FP)が、昨年11月にアナログ盤で再発された。今月20日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで同作の完全再現ライブを行う白井が、この名盤が生まれた背景や、現在の心境を語った。
白井はFPで全曲の作詞作曲とプロデュースを手がけた。「白井貴子&THE CRAZY BOYS(以下CB)」名義では初のアルバムでもある。
「コンサートもバンドで盛り上がってましたし、そのエネルギーをそのままアルバムにした方がいいんじゃないか」と考え、「どうしてもバンドでレコーディングしたい」と制作を始動させた。
当時、ニューミュージックでは松任谷由実、中島みゆきら女性の自作自演歌手が定着。所属事務所もアリスの流れをくみ、先輩に佐野元春がいるなど「自分で何もかも作るのが当たり前」というDIYな社風で、白井の挑戦に抵抗はなかった。
とはいえ、女性ロックバンドは内外でも成功例がまだ少ない時代で「男所帯で意志を通してやったのは、ホントに若かったからできたんだなって感じですね。社長が『貴子はロックの女王になるんや!』みたいな。冗談みたいな話をみんなで本当にしていった」。
CBのイメージは「すごく爽やかでかわいくて、女の子が跳びはねていて、周りで元気のいい男子たちがバンドをやっている」というもので、映画「ビートルズがやってくるヤア!ヤア!ヤア!」が念頭にあったという。
音楽だけではなく、ビジュアル面もセルフプロデュースした。
「大阪の商魂あふれる男所帯の事務所なので『なんや、そのスタイリストちゅうのは?Tシャツとジーパンでエエやないか』って言われたんですよ。思ってる衣装を担当してくれる人がいなかったので、私がデザイン画を描いて母に衣装を作ってもらってたんです」
今回、FPは再発にあたり、最新技術でリマスター&リカッティングが施された。
「目を閉じて聴いてると、昔の私とメンバーがガーッと押し寄せてくるようなイメージを感じましたね。(以前の音は)ちょっとダマになっているような印象、世界観がちっちゃいような感じがして。それがクリアされた。すごい気持ちがスッキリしました」
白井は当時を「男性には書けない、女子ならではのロックミュージックを作ろう!と思ってましたね」と振り返る。女性の本音をユーモラスに突きつける「Checkしてしまった!!」から平和を訴える「Foolish War」まで幅広い楽曲が80年代半ばの空気を感じさせるサウンドに乗せて歌われ、平和や環境の活動に携わる、今の白井につながる作品にもなった。
今回のライブに向けて、白井は「願わくば、来年再来年(取材時では24、25年)もFPを、こういう物騒な時代だから、こんこんと伝えていけるようなバンドのライブができたらいいな、そちらに進めるように頑張りたい」と意気込んでいる。
◇白井貴子(しらい・たかこ)1959年1月19日生まれ、神奈川県出身。80年、ソニーSDオーディション合格。81年、「世界一キュートなシンガーソングライター」のキャッチフレーズでデビュー。84年、「CHANCE」がヒット。CRAZY BOYS(以下CB)とともに西武球場公演などを成功させ、「ロックの女王」と呼ばれる。93年、CBのギタリスト本田清巳と結婚。2006年、デビュー25周年を記念してCB復活。