プロデューサー語る『ゴジラ-1.0』現地の温度感 「アカデミー賞」邦画史上初の栄冠なるか

 「ゴジラ-1.0」Ⓒ2023 TOHO CO.,LTD.
 「ゴジラ-1.0」Ⓒ2023 TOHO CO.,LTD.
 倒壊したビルから人が落ちるシーンは釣り板を使って表現Ⓒ2023 TOHO CO.,LTD.
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 映画界最大の祭典「第96回アカデミー賞」授賞式が10日(日本時間11日午前)に迫る中、邦画として史上初めて視覚効果賞にノミネートされた山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が栄冠を手にするか注目を集めている。短期集中連載「ゴジラ+(プラス)」の後編では、山崎監督と一緒に米ロサンゼルスでロビー活動を行ってきた東宝の岸田一晃プロデューサーに現地の温度感を聞いた。

 視覚効果賞のノミネート5作が発表されるまでには段階がある。候補20作のロングリスト、10作に絞られたショートリスト、続いてノミネートに至るのが特徴で、いきなり5作の候補が発表される作品賞などとは経過が異なる。

 勝手に選ばれるものではなく、ロングリスト前に登録が必要なのだが、当初は念頭になかったと岸田氏は明かす。昨年11月の締め切り2日前、北米配給を担う「TOHOインターナショナル」の担当者から登録を勧められ、疑心暗鬼のまま申請。ロングリスト前から宣伝活動するのが一般的だが何もしておらず、岸田氏は「無課金勢です。言われなかったら登録してなかったのでゾッとします」と苦笑いする。

 ロングリスト後にはVFXを説明する映像の提出、ショートリスト後には候補10作がプレゼンする「ベイクオフ」と呼ばれるイベントがあり、いくつもの関門を突破して最終ノミネート入り。勝ち残る中で大きかったのは、昨年7月に配給する東宝の海外戦略の拠点となる新会社「TOHOグローバル」が設立されたことだという。

 「-グローバル」と、その子会社でLAに社を構える「-インターナショナル」が現地の温度感をリサーチし、日本のゴジラチームにフィードバック。どんなプレゼンをすれば胸を打つか、綿密な打ち合わせを繰り返し、作戦を定めていった。

 「ゴジラ」はコロナ禍で撮影が延期されなければ2022年に公開されている可能性もあっただけに「-グローバル」誕生後に展開できたことは、まさに運命。「現地の温度感などを密にやりとりできたのが北米でのヒット要因でもあると思うし、ノミネートに関してもその関係性が発揮された気がします」。日米の連携で導き出したアピールポイントが「古典と最先端の融合」だった。

 そこには現地で最も注目を集めている「なぜ少ない予算で撮れたのか?」という疑問に対する答えがある。実は「ゴジラ」には、古典的なトリック撮影が多用されている。空中戦の戦闘機は人力で動かしたものをCGと融合し、倒壊したビルから人が落ちるシーンは釣り板を使って表現。泥くさい作業を最新技術と合わせて加工している。

 ハリウッドの予算ならフルCGや巨大セットで片付く部分を、あの手この手。アイデアで予算を抑える伝統的な特撮のDNAで、岸田氏は「日本としては最高クラスの予算をかけている、と前置きしつつ、ハリウッドのような潤沢な予算はないけど、なぜ撮れたのかをマジックの種明かしをするようにプレゼンしていきました」と説明する。

 ハリウッドでは製作費3億ドルの映画も珍しくない時代だが、見合った動員につながっている作品は少ない。視覚効果賞のライバルでは低予算の部類に入る「ザ・クリエイター/創造者」でさえ、ゴジラより10倍近い製作費とされている。肥大化に対する冷ややかな視点はアカデミー会員にも通底しており、勝機の一つと見られている。

 岸田氏はベイクオフでの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」のプレゼンを振り返り「もうすごいですよ。ゴジラのVFXは610カットなんですが、ガーディアンズは3000くらい。とんでもないクオリティー」と称賛しつつ「でも、ゴジラを応援したいみたいな空気はすごく感じているんです」とも語る。

 「なかなか切り開いていけなかった北米市場にゴジラが連れて行ってくれた。もしアカデミー賞を受賞できたら、もう1枚新しい扉が開くんじゃないかと思うので、ドキドキしながら、憧れるのをやめて、当日を迎えられたらなと思います」

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