富田望生 女優業を通じ言葉届けたい 福島いわき市出身 小5で被災 11日で東日本大震災から13年
女優の富田望生(24)が、東日本大震災から13年となる11日を迎えるにあたり、デイリースポーツの取材に応じた。出身地の福島県いわき市で被災し、避難生活を余儀なくされ、東京で暮らし始めて13年。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインの付き人役を演じて注目を集めるなど成長著しい富田が、当時を振り返り、女優になったきっかけ、地元への思いなどを語った。
「福島で過ごしたのが11年間で、東京が13年。こっちの方が長くなったなあって思って。いわき(市)にいる間は東京に来るなんて思ってもいなかったので、まさかこんな未来があるなんて想像もしてなかった」
屈託ない笑顔を振りまくが、13年前、当時小学5年生だった富田にとって、あの日のことは今も脳裏に深く焼き付いている。
集団下校するために廊下で待機していたら、突然、揺れが始まった。「聞いた事のないうなり声みたいな音とか、ガラスが今にもはじけ散りそうな音とかにびっくりして。避難訓練さながら教室に入って机の下に潜って地震が収まるのを待っていた状況でした」。
その時の心境を「パニックと冷静、両極端なものが常に一緒にいるような感覚だった」と振り返る。母が働くホテルに10日間避難し、その後、故郷を離れ、東京へ避難。突然の環境の変化、友達と離れ離れになったことが「一番苦しかった」と語る。
変化に苦しんでいた中、見つけたのが「3カ月後デビューしない?」と書かれた俳優の養成所の広告だった。「3カ月後には、もしかしたらテレビに私が出ていて、それを友達が見るかもしれないっていう単純な思いつきで強行突破でした」。
故郷のいわき市にいる当時は女優への夢などは「全くなかった」というが、稽古を積んで2年後の2015年に映画「ソロモンの偽証」でデビュー。いわき市でも舞台あいさつを行い、“思いつき”は現実になった。
知人も多く見守る中、成島出監督が「この子はこの作品のために大好きな地元を離れる運命だったから応援してあげてほしい」と観客へ投げた言葉に「一個、区切りをつけられた」といい、「『震災がなかったらお芝居もやってないだろうな』って思うと、私にとって震災は、本当に大きなきっかけの理由の一つになっている」と振り返る。
「ブギウギ」では主人公・福来スズ子(趣里)の付き人で福島出身の小林小夜を地元言葉で熱演。「朝ドラっていう歴史ある番組の中で、その言葉をしゃべれるって、とてもうれしかったです!」。今でも地元に帰ると方言は「出るもんです!」と笑う。
福島出身の役者として「こうして表に出る仕事をしてるからこそ伝えられることがたくさんある」と意義を認識。「それこそ津波が来るってなったら『上に上に』ってSNSでひと言書くだけで誰か一人は動いてくれるかもしれない。自分が発する言葉が、誰かに大きな影響を与えるかもしれない立場にある人間として、言葉を選ばず言うと“利用”していかないとなって思う」と力を込める。
女優業は自分と地元をつなぐ架け橋になっている。これからも福島への思いを胸に、躍進を続けていく。
◇富田望生(とみた・みう)2000年2月25日生まれ。福島県いわき市出身。2015年、映画「ソロモンの偽証」でデビュー。「ブギウギ」や「3年A組-今から皆さんは、人質です-」などに出演。映画「港に灯りがともる」(25年公開予定)では阪神淡路大震災の1カ月後に神戸市・長田に生まれた在日韓国人3世の主人公を演じる。趣味はピアノ、ドラム、歌。身長152センチ。