木梨憲武 出る側も作る側も現役でいたい ヒップホップ初挑戦!ノリノリ風雲児に迫る
お笑いコンビ・とんねるずの木梨憲武(62)が人生をエンジョイしている。最新アルバム「木梨ソウル」は、一流アーティストをゲストに迎えた意欲作で、邦ヒップホップを語る上で欠かせないラッパー・AK-69とコラボした楽曲では、ゴリゴリのヒップホップに初挑戦。還暦を超えた自らを「おじさん」と呼称しつつも、芸人、アーティスト、俳優、司会者、歌手と多岐にわたる活動でハッスルし続けている。「62才 ヒップホップ はじめました」。快活な風雲児の素顔に迫った。
ノリさんというニックネームの如く、木梨は“ノリ”で生きている。最新アルバムは、ノリの産物だった。自身の華麗なる人脈を生かし、名だたるアーティストへ「一緒に音楽を作ろうよ」と“号令”をかけた。これに賛同したB’zの松本孝弘、クレイジーケンバンドの横山剣、AI、松下洸平らとコラボし、ソウル、ヒップホップ、R&B、ロックなどジャンルを超えた全10曲を収録。「一流の方とコラボレーションすると、何だか一流の感じが出せるんだよね!」とニヤニヤした。
コラボ依頼も“らしさ”があふれる。行きつけのレストランが一緒という松本と、帰り際にバッタリ遭遇。「車の中から『松本さん!一曲!』と頼んだ。松本さんに『いいよ!どういう曲?』と言われたけど、『分からない!』って返した」。横山とのコラボの裏側も「たまたま音楽番組で廊下をすれ違って、『剣さん詞をちょうだい?』と頼んだ」と急だった。頭の中でコラボ欲がわいたら、即興でお願いするスタイル。「俺すぐ伝えに行っちゃうから。半ば強引に」と笑い飛ばす。
お笑い芸人、アーティスト、俳優、歌手と多才な顔を持つ。音楽面は、とんねるず、野猿、憲三郎&ジョージ山本、矢島美容室といったグループで活動し、ヒット曲を世に放ってきた。19年に個人名義でソロデビューしたが、刺激を追い求めて、重点的にコラボを続けている。「一人で作り込むのはつまらない。自分のアイデアだけでは限界がある。人に振ると思いつかないような『えっ!まじで?』というのが来てくれて、ドキドキして」。創作意欲がウズウズとかき立てられる。
木梨は「やっていることをあまり振り分けたことがないけど、アートもお笑いも、音楽もドラマも結局は団体戦だと思っている」と主張する。「俺がシンガー・ソングライターで楽器が弾けて、詞が書けて、編集もできる人であれば、自分の世界に閉じこもると思うけど、一切やってないし、才能はないので!トップの人たちから良い物をいただいて、俺はどの感じでどういうふうが似合うのかを探す」。その道のプロに任せることは任せ、自身は“化学反応”を起こすために頭をひねる。
事務所やレコード会社を飛び越え、コラボ相手に直接コンタクトを取って熱量を伝える。木梨の創作スピードが尋常じゃない理由はこれだ。「マネジャーさんとレコード会社さんに『あ~出た出た』と言われるけど、我慢できないお願いが!」とむずがゆそうにして、「伝えたモン勝ち!伝えられなかったら一生伝えられないまま。恋愛と一緒ですね。どうですか?」と逆質問。記者も妙に納得して「たしかにタイミングですね」と返すと、「あらっ!そういうご経験が?」とノリノリだ。
木梨にとって音楽活動の意義とは-。「暇つぶし?違う違う違う(笑)」と自問自答した末に、「プレーヤーとして出る側も作る側も現役でいたい。誰も『62歳がヒップホップをやっちゃいけない』とは言わない。年代的にいろいろやってきたけど、アーティストもスタッフも面白がってくれて。仲間に入れてくれるから、新しい友達ができてなんだかうれしいんです」。楽しいという実にシンプルな感情で動いているが、アーティストとしての夢を問うと、瞳にメラメラと炎を宿した。
「結果です。売れたいのよ!俺のやっていることを、音楽を聴いてもらいたい。展覧会をやると全国からたくさん来てくれて、本を出したらそこそこ買ってくれる。でもCDだけ売れないのよ!俺の音楽センスがないんじゃないかなって。結果!結果なんです。俺のことを買ってくれるレコード会社はいませんかー?ボーカリストとして売れないと(音楽から)上がりです。売れてるフリはこりごり!大して売れてないんです。B’zとか新浜レオンみたいに売れたいんですよー!」
心の叫びがダダ漏れな62歳。「こんなおじさんいないでしょ!張ってしゃべっているからね!アハハッ!」。言葉・顔貌(がんぼう)に、自由奔放に人生を謳歌する“らしい”生き方が投影されている。今日もノリノリな木梨を誰も止められない。
◆木梨憲武(きなし・のりたけ)1962年3月9日生まれ。東京都出身。お笑いコンビ・とんねるずのメンバー。80年代に「オールナイトフジ」「夕やけニャンニャン」などでブレークし、お笑い第三世代として業界をけん引。とんねるずは今月8、9日に29年ぶりに日本武道館ライブを開催する。俳優のほか、94年から創作活動を開始。米NYや英ロンドンでも個展を成功させた。音楽業はとんねるず、矢島美容室、野猿としてヒットを飛ばし、19年からはソロ名義でデビューした。