塚本監督 戦争“体験”「トラウマに」
著名人が戦争を語り継ぎ、伝えていく連載「戦後70年、いま、伝えたいこと」の第2回は、世界的な映画監督の塚本晋也氏(55)。作家・大岡昇平(1909-88)の代表作を映画化した新作「野火」が公開中だ。第2次世界大戦のフィリピン戦線で日本軍が直面した地獄を描いた戦争文学をなぜ今、しかも自主製作・自主配給で-そこには「今しかない」という「焦りと危機感」があった。
塚本監督は徹底して、自身が演じる主人公・田村一等兵の主観で戦場を描いた。塚本監督が取材した、戦争体験者の肉声も反映されている。
田村は米軍はもちろん飢餓と病、味方にまで襲われ、現地人を殺すはめにもなる。塚本監督は「(戦争では)被害者になることも加害者になることもある。人を殺してしまう恐怖を描かなきゃならない」と強調する。
撃たれた兵士は脳や内臓をぶちまけ、手足をもがれる。精神に異常を来す兵士も、飢餓に追い詰められて人肉を口にする兵士もいる。泥まみれでモノのように転がる遺体は「死んだ人が崩れてモノになる、それが現実になることを知らなきゃならない」との考えで「造形で作って、徹底的に凝った」という。
塚本監督は、高校生の時に初めて原作を読んだ時の衝撃を「鮮やかな映像が頭の中にくっきり浮かんで、自分が体験しているような没入感覚があった」と振り返った。
「この戦争の恐ろしさを、この実感をもって描きたかった」と映画化に動いたものの頓挫していたが、10年前、戦場に赴いた人々の高齢化に強い焦りを覚え、インタビューを開始。3・11以降「急速に日本が戦争の方に傾斜している感じが濃厚になり、『野火』もこれからもっと作りづらくなるのは間違いない。お金は全くないけど今しかない」と、自主製作に踏み切った。
スタッフが兵士役も兼ねるなど「ギリギリの最小限」の態勢で、多くのボランティアが協力。主演を兼ねた塚本監督も、機材を担いでフィリピンのジャングルを動き回った。リリー・フランキー(51)や中村達也(50)らが趣旨に賛同し、兵士役で出演した。
塚本監督は今作について「ある一定の方向の映画だと決めつけるのは非常に安直でつまらない」という。
その上で、「より自覚的に、本当に戦争ができる国になっちゃっていいのか、よく考えていただきたい。言いたいことが言えないのは、あり得ないくらい行き詰まりな状況。充満しちゃう前に吹き飛ばさなきゃいけない」と、日本の現状への危機感を隠さない。
大岡昇平や戦争体験者から、戦争をいわば“受け継いだ”塚本監督は「なるべく若い頃に見てもらって、トラウマにしてもらったらいい。映画自体はどう感じてもらってもいいけど、十分に感じてもらって、これからどうなるか考えてもらうといい」と、若い世代に期待している。