ビルの屋上をガチで跳び越えた!隠れた傑作「野獣狩り」

 私の思い入れのある主演映画が東宝の「野獣狩り」(1973年公開、須川栄三監督)です。近年、公開当時を知らない世代の映画ファンに注目され、2011年にDVDとして初めてソフト化されました。同作がデビューとなった木村大作カメラマンの信じられない映像をはじめ、日本映画の枠を超えようとする野心に満ちた、早すぎる傑作でした。

 刑事役の私が犯人グループを追って、銀座にあるビルの屋上から隣接した隣のビルへと、スタントマンなしで飛び移るシーンがありました。鉄柵もない屋上の端にある幅30センチくらいの出っ張りの上を走り、命綱もなく隣のビルへとジャンプしたのです。地上40メートル、ビルとビルの隙間に落ちたら即死という状況です。あれは奇跡でしたね。着地した時、足は屋上の端からわずか数センチのところでした。

 怖かったです。だが、その前に当時30代の木村さんが重いカメラを肩に担いだまま自ら飛び越えて手本を示されたものですから、仮面ライダーの本郷猛を演じていた20代の私が断ることはできません。今の時代では考えられないことですね。

 また、犯人が乗ったタクシーを全速力で追うシーンもすごかった。最初、木村さんは私と犯人の追跡シーンをバイクの後部座席から撮っていて、犯人がタクシーを止めて乗り込むと同時に自身も助手席に滑り込み、全力で走って車を追う私の姿を後部のガラス越しに撮った。それがすべてワンカットですよ。外国の人はどうやって撮ったんだとビックリしていました。私自身、体力の限界に挑み、試されました。テストなしの一発勝負、それが成功したんですね。

 銃を撃つのも海外で実弾の射撃訓練をして取り組み、銀座のゲリラ撮影では本物の事件だと思われて通行人の方が通報し、パトカーや消防車が駆けつけたのを撮影したり。リアルで、全てにわたってウソがない。今も刑事物を撮る時は参考にされると聞きますね。

 私はバイク事故で重傷を負った足のダメージがまだ残っていて、倒れるまで走って高熱を発し、けいれんするような状況でしたが、スタッフには言わずに我慢した。私は芸能界に縁故も何もない“駄馬”でしたから。無理をしてでも、やるしか認めてもらえない。その挑戦が、この作品で実を結んだのです。

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