バンジュンさんに助けられ、挫折の時代にマッチした私の怒り
前回ご紹介した主演映画「野獣狩り」(1973年公開、東宝)では、父親役のバンジュン(伴淳三郎)さんが私を助けてくれました。ずいぶん、かわいがっていただきましたね。あの時代、丹波哲郎さん、三國連太郎さん、萬屋錦之介さん、若山富三郎さん、二谷英明さん、大滝秀治さん…。大先輩方に後押しをいただき、私は恵まれておりました。
ある面では面白がられていたのかもしれません。泥だらけになってもはい上がってくる駄馬の雰囲気があったんじゃないかと。私自身が社会や世の中の仕組みが少し分かって、芸能界の裏や矛盾が見えてきて、いろんな鬱憤(うっぷん)や葛藤があった。それが作品の中でどうしても出てしまう。映像は嘘がつけませんから。「野獣狩り」の翌年、バンジュンさんと共演したドラマ「白い牙」(74年放送、日本テレビ系)でもそうでしたね。
「野獣狩り」に登場する犯人グループは、革命を掲げてテロ的な行動を取る若者たち。刑事役の私は立場こそ違えど、同世代である彼らの気持ちに少し同情しつつ、それは違うんじゃないかと彼らをいさめて反発される。その葛藤が出ていて、周囲に「いい芝居をしている」と言われたのですが、私は全然、芝居してないんですよ。
私は演劇学校も卒業できなかった劣等生で、ただ感じたままをぶつけていた。むしろ犯人役の俳優さんたちの方が演劇的にすごい方たちですから、私のはき出す思いをうまくキャッチして返してくれた。それで映画がスパークしたんじゃないかと。
知る人ぞ知る作品ですが、映画関係者の中には「日本映画史上、5本の指に入る1本」と評する方もいます。その傑作で、吹き替えなしで生身の体をぶつけた。それは当時、世の中のあらゆるものに対する私なりの怒りや反発だったんですよね。
安保闘争以降、政治的に激動だった時代が終えんに向い、挫折した若者たちがたくさんいた。「野獣狩り」の前年には浅間山荘事件もありました。信じていたことが全部ひっくり返され、見失い、さまよえる青年たち-という時代背景があったから、ある面で僕の心情とも重なって、それがリアルに映像の中で生かされ、時代にうまくマッチしたのかなと今にして思います。