荒唐無稽なドラマ「消えた巨人軍」を覚えていますか?
先日、このコラムの担当者さんが「消えた巨人軍」(1978年9月に5回放送、日本テレビ系)という私の主演ドラマのDVDを持って来られましてね。「懐かしいねぇ…」って話をしたんですよ。
長嶋茂雄さんが監督で、王貞治さんが本塁打の世界記録を達成(77年)した時代。長嶋監督をはじめ、コーチ、王さんら一軍選手の全員が集団で誘拐、監禁されるという荒唐無稽なストーリーでした。本物の人たちが実写でうまく編集されて“出演”しています。
私はアンチ巨人の刑事役。野球談義(※)で意見を戦わせる義父で巨人ファンの先輩刑事・大坂志郎さんと捜査に当たります。力道山さん、大鵬さんらと共に戦後から経済成長期の日本で大きな影響を国民に与えた存在である長嶋さん、王さんと同じ映像の中に出させていただいた、思い出深い作品です。
あの頃は巨人ファンが圧倒的に多かった。生まれ育った愛媛もそうでした。だが、私は野球が好きではなかった。貧しくて道具を持っていないから野球の仲間に入れてもらえず、それで中古の道着で柔道をやったということもあって。それでも、こいつにやらせたらどうなるか?と興味をもたれるタイプの俳優だったのか、引っ張ってくださいました。
テレビドラマで印象深い作品といえば「白い牙」(74年、日本テレビ系)。あらぬ疑いを掛けられて警察を辞め、肉体労働をしながら悪と闘う元刑事の社会派ドラマです。悲しみを背負い、宿命を受け止め、言い訳もせずに黙々と信念を貫くアウトローを演じ、スタントマンなしのカーチェイスもあって命がけで撮影しました。
そして「特捜最前線」(77~87年、テレビ朝日系)。大滝秀治さんに私は肩を借りましたね。あの人からは学ぶことがものすごく多かった。リハーサルの時は全然反応がないんだけど、本番になった途端にガラリと変わる。もう考えられないような芝居を持ってきますよ。こちらは振り回され、それによって演技もリアルになってくる。大先輩方が私を作ってくれた。それを後世に託していきたい。今、そんな使命を感じる年になりました。
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※例えば、藤岡が「今年の巨人はダメですよ、戦力がそろってない」と切り出すと、大坂が「いや、山倉と角が入ったのは大きいよ。それに最後は新浦で勝つ長嶋采配」と反論。すかさず、藤岡が「その采配が行き当たりばったりですよ」と返す。そんな野球ファンの会話が劇中の主に序盤で繰り広げられる。