【映画MC伊藤さとり】米アカデミー賞主演男優の「捉え方」の違い

 全世界で大ヒットを記録している「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」。この映画は「ハリー・ポッター」シリーズの原作者J.K.ローリング氏による新たな魔法ワールドを映画化したものであり、“ファンタビ”シリーズとしては2作目。そして主人公である魔法使いニュートを演じるのは「博士と彼女のセオリー」で米アカデミー賞主演男優賞を受賞したエディ・レッドメインなのであります。

 世界的人気を誇るエディは、演技力もズバ抜けており、その理由は「ものの捉え方の違いなのでは」と思ったエピソードを今回お伝えしましょう。

 それは「リリーのすべて」(16年)で来日した時のこと。この映画はトランスジェンダーの芸術家が、性別適合手術を受け、体も本来の女性になっていく実話。そんな主人公を演じるエディが舞台あいさつに立つ前に私たちにこう言いました。「『トランスジェンダーを演じる上で大変だったことはなんですか?』という質問はしないでほしい。彼女は確かにとても大変な経験をしたけれど、あくまでひとりの人間であり、彼女の心の中を探求することが演技のアプローチだったのだから」と。

 あれから2年がたち、11月23日に日本で初日を迎えた“ファンタビ”シリーズ最新作のプロモーションで再会となったのですが、スタッフからの進行説明を受けたエディは「全員に共通質問ではなく、質問をバラけさせてほしい」と言いました。短い舞台あいさつの中で、お客さんに少しでも会話の広がりを感じてもらおうという心遣いだったんでしょうね。「日本のファンは世界で一番熱いです!」と客席の隅々まで目を向けてうれしそうに語りかけ、関わった日本スタッフのほぼ全員にハグをして帰って行きました。ニュートをチャーミングに演じ、世界中をとりこにするエディ・レッドメイン。“偏見のないものの見方”で役を見つめるこの俳優は、役に入り込みやすく、人の感情にもしっかり目を向ける人物。だから彼が演技という魔法をかけたキャラクターに、人々がとりこになってしまうのかもしれません。

 さて、この連載は今回で最終回となりました。ご愛読ありがとうございました。

 ◆伊藤さとり(いとう・さとり)東京都出身。映画の記者会見や舞台あいさつを毎日のように担当する映画MCで、年間500本以上の映画を見る映画コメンテーター。TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介も担当している。

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