【大橋未歩アナ】アートを通して“今日を生きる選手たち”に出会う
「大橋未歩のたまたまオリパラ!」
来月は雛祭り。幼少期に母が一体一体丁寧に飾ってくれていたことを思い出す。でも今目の前にいる福々しい人形たちは私にこう問いかけてくるのだ。
「何をもって五体満足というのか」
ぷっくりとした愛らしい顔立ちにすべらかな肌をした博多人形たちが、車椅子に乗ったり義足を履いたりしている。手には一様に卓球のラケット。この人形が展示されているのは、現在、渋谷区役所15階で開催中のパラ卓球とアートのコラボ「PARA HEROes(パラ・ヒーローズ)展」。
制作したのは、人形アーティスト・伝統工芸博多人形師である中村弘峰(なかむら・ひろみね)さんだ。江戸時代の子供の人形というのは五体満足の象徴だとされている。ゆえに今回パラアスリートの作品を作るときに矛盾を感じ『五体満足』を再定義した。中村さんは、五体満足とは心の持ちようであり「パラアスリートはこの人生を選んだ人たち」だと話す。
存在感にフォーカスするために、動きや表情はあえてつけず、じっと前を見据える姿に作り上げた。対面すると、ただそこに在るだけなのにずっと見ていたくなる。不思議と自分が肯定されている気がして心が安らいでくる。あぁ「生まれてきたこと」自体が祝福されている作品なのだと私は強く感じた。
一方で躍動感に溢(あふ)れ、絵からパラ卓球日本代表の岩渕幸洋(いわぶち・こうよう)選手が飛び出してきそうな作品を作り上げたのは、画家の飛鳥達也(あすか・たつや)さんだ。
元々漫画を描いていたが、たまたま出会ったカラヴァッジョに強く惹かれ、油彩画に転向。光と影が織り成す陰影によって、筋肉の立体感や顔の微細な皺(しわ)が鮮やかに浮かび上がる。語りかけてくるのは、切り取った瞬間ではなく、長い時間の流れだ。筋肉からは過酷なトレーニングの日々を、顔に刻まれた皺には障害と向き合ってきた人生を感じさせる。
パラリンピックの開催方法などは未だ不透明だが、黙々と今日を生きる選手たちに、アートを通して出会ってもらえたら。今日まで開催の予定だ。
◆大橋未歩(おおはし・みほ)1978年8月15日、神戸市出身。フリーアナウンサー。2002年入社のテレビ東京時代にアテネ、北京、ロンドン五輪を取材。18年にパラ卓球アンバサダー就任。19年から「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」メンバー、パラ応援大使でも活躍。