【大橋未歩アナ】迫る東京2020金メダルって何だろう
「大橋未歩のたまたまオリパラ!」
東京2020が迫る中、コンディションが整わず辞退する選手もいる。ふと考えることがある。金メダルってなんだろう。
「いつもは陽気な外国人選手でも、表彰台の一番高いところに上がったら必ず泣くんですよね。だから行ってみたいんです。そこからどんな景色が見えるのか」。2008年の北京五輪前に元陸上日本代表の為末大さんにインタビューした時の言葉を時折思い出す。
柔道元日本代表でアテネ五輪金メダリストの阿武教子(あんの・のりこ)さんは世界選手権で4連覇する実力がありながら、五輪は2大会連続初戦敗退を経験している。「五輪になると極度の緊張で、現地入りしただけで体重が減ってしまう」。負けた後は裏口から誰にも会わないように五輪会場を後にしたという話を聞いて胸が痛くなった。3度目の挑戦で借りを返すまでは、金メダルという期待は背負った十字架のごとく重かっただろう。
先日重量挙げ女子87キロ超級でトランスジェンダーの選手が代表に選出された。男性ホルモンのテストステロン値が12カ月間にわたり一定以下なら、女子として競技することを認めるというガイドラインに沿った決定だ。本人の社会的生きやすさは当然尊重されるべきだが、女子選手からは不公平という声もあり物議を醸している。当該選手が金メダルを獲得したらどんな景色が待っているのだろう。
そもそもスポーツという言葉の由来は、ラテン語の「deportare」と言われている。「運び去る、運搬する」の意味で、それが転じて「精神的な転換」となり、やがて「気晴らし」「遊び」の意味を持つようになったという。元来スポーツを観る者やする者に楽しみや興奮を与えるための、力の適切な均衡を作る様々なルールは、いつしか「競技」となり、今や「政治」性も帯びてしまっている。
日本選手が金メダルを獲得すると視聴率が上がるのは事実だ。「日本選手金メダル!」と言って毎日金メダルの数を放送で発表していた自分は、五輪の政治利用を批判できるのだろうか。何のための五輪なのか。もう一度考えたい。
◆大橋未歩(おおはし・みほ)1978年8月15日、神戸市出身。フリーアナウンサー。2002年入社のテレビ東京時代にアテネ、北京、ロンドン五輪を取材。18年にパラ卓球アンバサダー就任。19年から「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」メンバー、パラ応援大使でも活躍。