杉山清貴&オメガトライブ(1)
トライアングル・プロダクションを主宰していたプロデューサーの藤田浩一さん(故人)が、「きゅうてぃぱんちょす」という横浜のバンドを手がけることになりました。後の「杉山清貴&オメガトライブ」です。
彼らの曲を書いてほしいと連絡がありました。藤田さんは、自分が納得するものを作るためには、バンドのオリジナルではなく、新しい感覚を持った作家とやってみたいという気持ちがあったんじゃないかな。ベテランに気を遣いながら書いてもらうのも嫌だったんでしょうし…。
最初に書いた曲は藤田さんのイメージと一致せず、OKになりませんでした。私は当時の西海岸的なバンド、例えばジャーニーやボストンなど、アンビエンスが効いたスペーシーなサウンドのバンドを連想していました。
が、彼はさらに求めます。「これも悪くないけどもう1曲書いてくれないかな。もうちょっとドメスティックなメロディー、泣き(哀愁感)のあるものにしてほしいんだよね」と。それで書いたのが、デビュー曲の「SUMMER SUSPICION(サマー・サスピション)」でした。おそらく藤田さんの頭の中には、洋風の新しいテイストもありながら、日本できちっと歌われる歌曲にしたいということがあったんじゃないかな。
その頃、私も気付き始めていました。洋楽的な私の手法を、少し日本語がはまりやすく分かりやすいメロディーにし、哀愁感を織り込めることがヒットにつながるのではないかと。それはヒットチューンを書くための、私なりの方程式みたいなものでした。
康珍化さんは康さんで、詞を書くにあたって湘南までバイクを走らせたという話を聞きました。イメージハンティングして湘南の空気感をつかんでいたんでしょうね。
当時はハワイや西海岸に行くことが若者のステータスでした。私も藤田さんも海が大好きで、そのリゾート感が作品やバンドのサウンド、さらにビジュアルイメージにつながっていきました。それが本人たちが表に出てこない、海をベースにしたジャケットに反映されていったのです。藤田さんがこだわったイメージ戦略でした。
◇ ◇ ◇
林哲司(はやし・てつじ)1949年8月20日生まれ、静岡県出身。持ち前の洋楽センスで「悲しい色やね」「悲しみがとまらない」「北ウイング」など多くのヒット曲を作曲。2015年、アルバム「Touch the Sun」発表。