カナダ大使館でドキュメンタリー映画を
在日カナダ大使館(東京・港区)では今年、日加外交関係樹立85周年とカナダ国立映画制作庁創立75周年を記念し、「カナディアン・ストーリーズ」と題してカナダ産ドキュメンタリー映画を月1回上映している。
大使館と言えば、一般人にとってはせいぜい渡航ビザの申請に行く程度の近寄りがたい場所だが、最近は在日オランダ大使館が大使公邸庭園を特別一般公開したり、2010年のサッカーW杯時にはデンマーク大使館が「日本対デンマーク戦」の観戦イベントを中庭で行うなど、門戸を開くところも増えてきた。今回も貴重な訪問のチャンスだ。
「カナディアン・ストーリーズ」ではこれまで、メディア論などでも知られるカナダの英文学者マーシャル・マクルーハンのドキュメンタリー「McLuhan’s Wake」(02年・ケビン・マクマホン監督)、有名ドラマーたちがカナダで行った若手ワークショップを追った「A Drummer’s Dream」(10年・ジョン・ウォーカー監督)を、ゲストスピーカーを招いての解説付で上映してきた。
上映会場は大使館地下2階にあるオスカー・ピーターソン・シアター。ケベック州モントリオール出身のジャズ・ピアニストから名づけられた233席の劇場だ。青山という一等地の大使館内にこれだけ立派な劇場を持っているところは少ない。館内には、カナダに留学経験もあり、02年に大使館でスカッシュの練習中に倒れて崩御された高円宮憲仁親王をしのんで設けられた「高円宮記念ギャラリー」もあり、こちらも一般入場自由だ。
各国大使館は自国の映画という芸術をリスペクトしており、筆者もこれまで来日パーティーなどでお邪魔させていただくことが多々ある。それでも、やはり最多訪問大使館はカナダで、話題の最新カナダ映画の上映会や懇親パーティーも多数行われる。
こうした一連の活動について、カナダ大使館参事官であり広報部長のローリー・ピーターズさんは流ちょうな日本語で語る。「カナダのイメージと言えば、一般的に自然と『赤毛のアン』でしょう。しかしカナダには映画はもちろん、アニメやジャズやアートなど現代芸術も充実しています。それの文化を紹介することで、より多くの日本の方々に新たなカナダの魅力を知っていただきたいと思ってます」。
特に映画に関してカナダは、今最も注目されている国である。本年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門では、18本のうち、アトム・エゴヤン、デヴィット・クローネンバーグ、グザヴィエ・ドランという3監督の作品が選出された。弱冠25歳の新鋭ドラン監督が映画「マミー(原題)」で審査員賞を受賞し、クローネンバーグ監督作「マップス・トゥ・ザ・スターズ(原題)」のジュリアン・ムーアに女優賞をもたらし、カナダ旋風が巻き起こった。
日本でも今後、ドラン監督をはじめ、「プリズナーズ」も好評だったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「複製された男」(7月18日公開)、女優としても知られるサラ・ポーリー監督作のドキュメンタリー『物語る私たち』(8月公開)と、カナダ出身監督作が続々上陸する。
ハリウッド映画やドラマのロケ地としても今やカナダはなくてはならない存在で、現在公開中の米映画「X-MEN:フューチャー&パスト」も、トム・クルーズ主演の話題作「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(7月4日公開)もケベック州で撮影。米国からも近く広大な土地を活用できるという大きなメリットがあるが、カナダ側が様々な税制措置や助成支援を設けているのも大きな魅力。一方カナダにとっても、例えばスタッフの何%かでカナダ人を起用することを義務付けており、人材雇用の一環にもなっているのだ。
こうして我々はカナダの景色や文化に日常的に触れていると言っても過言ではないのだが、確かになかなか気付いていないというのが事実。そこで大使館自ら広報活動にいそしんでいるワケだが、それだけ映画を自国の重要な産業かつ芸術として自負している事の証。また同時に、大使館内に一般人を招き入れることができるのも、カナダは国際紛争に巻き込まれることなく安全であることも示している。筆者ですら赤坂の某大使館とか、元麻布の某大使館とかはセキュリティーが厳重だし抗議デモも多々なので、前を通るだけでもビクビクしちゃいますから。
次回の「カナディアン・ストーリーズ」は6月18日で、イヌイットのパイロットであるジョニー・メイにスポットを当てたマーク・ファファード監督「The Wings of johnny May」(13年)。参加希望者は6月10日までにEメールで応募を。申し込み、開催詳細はカナダ大使館HPへ。 (映画ジャーナリスト・中山治美)