塚本晋也ら精鋭監督トリオ対談(後編)

 現在、東京・有楽町朝日ホールなどで開催中の第15回東京フィルメックス(30日まで)に参加中の「さよなら歌舞伎町」(来年1月24日公開)の廣木隆一監督、「野火」(来年7月25日公開)の塚本晋也監督、「SHARING」(公開未定)の篠崎誠監督が釜山国際映画祭で行った鼎談の後半をお届けします。映画祭を知り尽くした3人が語る、その魅力とは?

 -「さよなら歌舞伎町」はヘイトスピーチのシーンがあったり、「野火」は戦争、「SHARING」は震災後と、3人とも今日的な問題を盛り込んでいます。

 廣木「荒井晴彦さんの脚本は、染谷将太演じる主人公は宮城県出身ではなかった。ヘイトスピーチも、大久保と歌舞伎町が舞台だから入れました。トロント国際映画祭で上映した時はQ&Aでアジア人から『なぜあのシーンを入れたんだ?』と言われました。でも釜山では韓国人女性がデルヘリ嬢をやっている設定にすら、何の反応もなかったですね」

 -外国に住むアジア人にとってはアジアのマイナスイメージを海外に発信しているように思うのかもしれません。でも韓国在住者にとっては日常にある風景の一部だと理解しているのでしょうね。

 塚本「『野火』も戦争映画なので、釜山では過去の戦争の話になるのでは?と、ちょっと身構えていたんですが」

 廣木「僕らが意識し過ぎなのかもね」

 -むしろ「さよなら歌舞伎町」のQ&Aでは、セウル号の沈没事故後に変わったという人生観を、染谷演じる被災者の心情に思いを重ねて見たという韓国人女性の発言が印象に残りました。

 廣木「よろしければ(慰霊の為の)黄色いリボンを付けて下さい」ってね」

 篠崎「でも『SHARING』のセリフの中で関東大震災時の朝鮮人虐殺に触れているのですが、社会が危機的な状況に陥ると不安が増大して敵を作ったり、社会的に弱い立場の人間を標的にする。それが今のヘイトスピーチにも繋がっていると感じますね」

 廣木「その撮影も大変だった。所轄の警察に撮影許可を得たけど、何か起こっても知りませんよ…という雰囲気でした」

 塚本「なんで世の中全体がそんな感じになっちゃたのでしょうね?悪口を言うという感情がネガティブ。それがある限り、いがみ合う事は終わらないですよね。こうして映画祭に来ると、日々(日韓が)騒々しくやりあっていることをまるで感じないのですが」

 -国際映画祭では、映画が人種や国籍を超越することを実感しますね。

 塚本「僕は最初、国内で鎖国状態で映画を作っていたから、海外からFAXが来ただけで宇宙からのメッセージかと思って、怖くて捨ててましたから。なんじゃ?こりゃー!って(笑)。ところが、その怖かった外国人が僕の作品を食い入るように見てくれたのが、あまりにもうれしくて。海外の人と一緒に見ると、次に創るべき事が見えてきたりします。そこから先は、国内だけで採算を取ろうとしていた事が、海外で配給先を見つけて作品を売ることで棚ボタ的にお金が入ってウハウハしていたけど、それもやがて、海外セールス分をあらかじめ考えないと映画が作れなくなっていた。いろんなメリットがあるので、今は海外がすごく大事です」

 篠崎「僕も『おかえり』(96年)でベルリン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞し、その賞金で現像所への借金を払うことができました。それぞれの国で自主映画を積極的に配給している会社にコンタクトを取って、海外に上映権が売れたこともあります。さらに海外の映画祭では、出演者や監督が有名無名であることに関係なく、映画そのものが良ければメディアにちゃんと批評が載るので凄く励みになりました」

 -映画祭は出会いの場。最近はシネコン会場が増え、狭い空間で観客の入れ替えをするのでロビーに集って会話ができないのが、海外映画祭は参加者が立ち寄るカフェなどの空間を大切にしています。

 塚本「それはひしひしを感じます。溜まり場があると、皆と話が出来ます」

 廣木「フィルメックスは?」

 市山尚三プログラム・ディレクター「朝日ホールはその点、広いロビーがあるので貴重です。今は映画ってどこでも見ようと思えば見られるけど、映画祭じゃないと逢えない人もいる。その場を創るのが映画祭の魅力だと思ってます」

 塚本「ではまたフィルメックスで(笑)」

 廣木・篠崎「はい、お会いしましょう」

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