映画上映とワークショップで童心に返る
童心に返る~という光景を久々に見たかもしれない。
先ごろ『劇場版 ウルトラマンギンガS 決戦!ウルトラ10勇士!!』(公開中)の公開を記念し「みんなでウルトラお絵かき!ワークショップ付き親子特別試写会」が開催された。
ワークショップは、松竹会議室に敷き詰められた真っ白いキャンバスに、皆で協力しあいながら一枚の巨大な作品を完成させるというもの。募集人数は親子30組だったのだが、実に約350組の応募が殺到したという。そこには子供以上に、無心にお絵かきに夢中になっている大人たちの姿があった。
主催した東京フィルメックスは毎年10月、アジアの気鋭監督の作品を上映する映画祭である。今年で16回目(11月21日~同29日)。
一方で2008年から子供向けの映画ワークショップ〈「映画」の時間〉を行っており、これまで映像制作や、木下惠介監督『二十四の瞳』(1954年)や小津安二郎監督『お早う』(59年)の観賞会などを行ってきた。
今回の企画はその一環で、〈「映画」の時間〉第9回目。東京フィルメックスといえば、中国のジャ・ジャンクー監督や韓国のキム・ギドク監督ら作家性の強い監督らが常連で、なぜウルトラマン!?と思っていたら、スポンサー繋がりがあった。映画の製作委員会に名を連ねるバンダイビジュル株式会社は、東京フィルメックスを第2回目から支えているスポンサー企業でもある。そこから話が発展し、今回の企画が実現したという。
ちなみに『劇場版 ウルトラマンギンガS 決戦!ウルトラ10勇士!!』はこの時が世界初上映。
筆者も松竹試写室で一緒に観賞させてもらったのだが、入園前の小さな子供も騒ぐことなく(理由は分からないが泣いた子が1名)、上映中、スクリーンを集中して観ていたことに驚いた。戦闘シーンの緊迫感はもちろん、ストーリーに笑いという緩急も付けて子供たちを飽きさせない物語の構成バランス。皆で力を合わせて強敵に挑むという分かりやすいメッセージ。
そして63分という上映時間。シリーズで長年培ってきた技術が集約されているのだろう。久々に「ウルトラマン」シリーズを観賞した筆者は「ウルトラマン、いつの間にしゃべるようになったんだ!?」という新鮮な驚きでいっぱいだったが。
続いて行われたお絵かきワークショップ。これは「ウルトラマン」シリーズのメーンターゲットが3~6歳の未就学児童で、この日の参加対象年齢も3歳以上。これまで〈「映画」の時間〉で行ってきたワークショップでは子供たちの集中が持たないのではないか?という課題や、今回の映画のテーマ性を熟考した結果、生まれたアイデアだったという。
ワークショップ前、子供たちは汚れてもいいように作業着に着替えて戦闘準備開始。スタッフがお手本として、人型を写し取る「分身の術」を見せると、子供たちの目がキラリ!と輝いたのが分かった。用意された絵の具やマジックを手に、早速、お絵描きを開始。あっという間に絵で埋め尽くされていった。
東京フィルメックス広報の岡崎匡さんが語る。「本番までに、大人のスタッフだけでリハーサルを行い、問題なく進めることは出来るだろうと思ってました。ただ、実際に子供たちが本当に絵を描いてくれるのか?恥ずかしがったり、やるべきことが分からなかったりするだろうかという心配は最後までありました。それが蓋を開けてみたら全くの杞憂で、映画を観た後の興奮のまま、思い思いに描き始めたのは驚きました」
何より面白かったのが、最初はカメラを片手に子供たちの撮影に夢中になっていたお父さんやお母さんたちが、いつの間にか一緒になってキャンバスに向かっていたこと。大人の本気のウルトラマンの絵には、子供たちから感嘆の声があがっていたほどだ。でも、そうして大人が本気で楽しんでいると、間違いなくその高揚ぶりは子供に伝わり、自然と笑顔が広がっていく。クレヨン片手にバルタン星人を描いていたお父さんが言った。「僕らもウルトラマンで育った世代。このイベントは完全に大人狙いですよね。ズルいですよ(笑)」
東京フィルメックスは「映画の未来へ」をキャッチコピーに掲げている。
今度も年に1回のペースで〈「映画」の時間〉を開催していくという。「この企画が子どもたちはもちろん、親にとっても映画と出会う大事なきっかけになるのでは、と感じています」(岡崎さん)。同感です。(中山治美)