安川悪斗の壮絶すぎる半生に迫る映画
今年2月の「顔面崩壊試合」で一躍、時の人となった女子プロレスラー・安川悪斗(28)。なんの偶然か、彼女のドキュメンタリー映画『がむしゃら』が東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開。イジメにレイプ、自殺未遂に度重なるケガと病気と、赤裸々に語られた壮絶過ぎる彼女の半生がまた話題を呼んでいる。先の試合で受けたケガでまだ包帯だらけだった安川と、高原秀和監督(53)に映画公開までの軌跡を聞いた。
-2人の出会いは?
高原「講師を務めていた日本映画学校(現・日本映画大学)の実習作品で、俳優科から『この子たちを使って下さい』とやって来た生徒の1人が彼女。それからよく宴席で一緒になり、腕の傷は分かっていたから最初から『それリスカ(リストカット)か?』と普通に聞いていたので(胸の内を)話しやすかったんじゃないかな?」
安川「ポンと聞いてくれるので。何も聞かずに勝手に思い込む人よりは理由が話しやすくなりますからね」
高原「そうして過去の話をちょこちょこ聞いていて、こんなに面白い人生はないと。でも劇映画や小説にすると絶対、ウソ臭くなってしまう。そこで昨年、ドキュメンタリーで撮らしてくれない?と。でも当初は、過去の話を掘り下げてプロレスラーとして頑張ってます!という話しでキレイに終わる予定だった。ところが次から次へとマイナスが襲ってくるから撮影が終わらない(笑)」
安川「14年4月のデビュー2周年興行でクランクアップしたその日に、バセドウ病の悪化で入院したんですよね(苦笑)」
-カメラで明かすことの葛藤は?
安川「当初は『自分の人生なんて面白くないですよ』とためらいましたが、基本的にカメラが回ると演じてしまう自分がいる。ただ(レイプされた)公園を再訪した時はキツかった」
高原「公園に行かなきゃ(この映画の)意味がない。でも撮影したい場所のリストを出した時、目ざとく『公園』を見つけたよね。ただ僕もカメラを回しながら躊躇(ちゅうちょ)してしまった。自分は(映画『ゆきゆきて神軍』の監督)原一男にはなれないなと思いました(苦笑)」
安川「以前、スポーツカウンセラーに『あなたの防衛本能は“笑う”ってことですね』と言われた事があるのですが、映画を見て改めてそうだなぁと。無理してしゃべろうとしている時の笑顔が一番気持ち悪い。これはヘンな子だと思われて当たり前だと思いました」
-自己嫌悪に陥りませんでしたか?
安川「完成した映画を真っ先に両親に見せました。母は泣きながら、父は無言で見てた。その時が一番キツかった。でも親に見せないと、人前に出せない。結果、両親は『私に任せる』と言ってくれました。見せた後は、ちゃんと自己嫌悪には陥りましたけど」
高原「今年1月の試合で御両親に御あいさつした時『私が知らないことがいっぱいあった』と言ってました。でも、子供ってそういうもの。誰でも子供時代、親に言えないことがいっぱいありますよ。でもここまで吐き出せば、前を向くしかないでしょう」
安川「(今回の)入院中に、両親ともあの時はこうだったね!といろいろ話が出来ました。『不幸中の幸い』ですね」
-安川さんの人生は「不幸中の幸い」ばかりですけど(苦笑)
安川「でもケガは治ります。レスラーなので痛みに耐えるのは慣れている。今回も入院中も毎日誰かがお見舞いに来てくれて、しゃべったり笑ったりした事で(顔の)腫れもひいて回復が早かったと医者も言ってました。むしろやってしまった子(世IV虎=よしこ)の方がキツイと思う。21歳とまだ若い」
-安川さんが女子プロで自分の居場所を見つけたように、不良だった世IV虎さんも女子プロで居場所を見つけたばかり。今回の一件で彼女は無期限出場停止処分を受けましたが、彼女の心情が分かるだけに心配だと。
安川「はい」
-高原監督も、まさか本作で初ドキュメンタリーに挑むとは!?ですね。
高原「今年は『セクシーアップ桃色乳首』(1985年)で監督デビューして30周年。最近は劇映画を撮るのが難しく、劇団『lovepunk』をやったりしているけど、節目の年にこれを撮れたのは意味があるかなと思ってます」
-続編は?
高原「今回の病室からカメラを回してます。またこんなネタを持って来やがって!と(笑)」。
安川「映画を持って全国を回って観客と対話がしたいです。この映画が誰かの活力になればうれしいです」
終了時、「ありがとうございました」と、丁寧に頭を下げた安川に対し、「ねっ!良い子なんですよ」と茶々を入れた高原監督。ヒールレスラーとしては完全にキャラクターが崩壊しているが、その隙もまた彼女の魅力なのだ。(中山治美)