インドネシア発のビマ・ブーム日本上陸
節目の年を迎えた第10回大阪アジアン映画祭が3月15日に閉幕した。上映本数が17の国と地域から集められた過去最多の計48本に上ったこともあり、来場者は9前年の7000人から9300人と大幅アップ。また昨年に続いて「アジアン スターフェスティバル」と題したレッドカーペット・イベントを行うなど、大阪観光局との連携も取れてきたようだ。そんな中、筆者が燃えたのは、東南アジアで製作された新作を集めた特別企画「ニューアクション!サウスイースト」。インドネシア初のオリジナル特撮ヒーロー「ガルーダの戦士 ビマX」も紹介されたのだ。
「ビマ」シリーズは、13年6月からインドネシアで放送されている特撮ヒーローものだ。日本人とのハーフであるエグゼクティブ・プロデューサーのレイノ・バラックが幼少時代から「仮面ライダー」シリーズのファンだったこともあり、原作を石森プロに依頼。伊藤忠の協力を得て、日本の特撮スタッフを招へいして番組制作が行われている。第1シリーズが好評だったこともあり、14年9月からは第2シリーズに当たる「ガルーダの戦士 ビマX」が放送開始。現地では毎週日曜日の朝に放送され、視聴率は平均20%を超える超人気番組だという。それに合わせてバンダイナムコ・インドネシアが手がけているビマXグッズの売れ行きも快調のようだ。
このインドネシアで起こっているビマ・ブームを、日本の特撮ファンが黙っているワケがない。今回の上映も、本来ならテレビシリーズを上映するなんて頭の堅いお偉方がいる映画祭ではムリだが、そこは数々のおバカ映画も上映し、観客に笑いを届けてきたシャレの分かる大阪アジアン映画祭。
今年1月発売の創刊・冬の号で「ビマX」を大々的に取り上げた雑誌「特撮ゼロ」を発行元アオ・パブリッシングや、ライターの浅尾典彦氏らの働きかけにより、特別編と第2シーズンの第2話という2作の上映が実現した。浅尾氏いわく、日本でのテレビ放映にも動いたようだが、大人の事情で実現が難しい為、ならば映画祭で…という思いがあったようだ。
確かに映画祭のスクリーンでの上映は、画質はイマイチだし、中途半端な2編の選出でストーリーもぶっちゃけ、良く理解できず。ざっくりと、兄弟戦士が悪と戦うというのは分かった。そんな事は差し引いても、ビマXのカッコイイこと。キャラクター・デザインのモチーフとなっているのは、インドネシアの国鳥であるガルーダ。機敏な動きをしているのは、日本のスーツアクターたちだ。ただ、撮影地のインドネシアは熱帯雨林気候。首都ジャカルタの年間平均気温は28度を超える。現地スタッフの育成も兼ねて日本人が加わっており、いずれは現地の人にスーツアクターを任せないようだが、とてもじゃないが、体力が持たないのだという。筆者は昨年、スーツアクターの裏側に迫った映画『イン・ザ・ヒーロー』の撮影現場に密着していたこともあって現地スタッフの苦労がしのばれ、作品を観ていてちょっとウルッとしてしまった。
ほか、同特集上映ではインドネシア映画の歴史をひも解いたドキュメンタリー『ガルーダ・パワー』(バスティアン・メーソンヌ監督)も上映された。同国は日本統治時代があったことも影響しているが、世界の流行映画をパクったアクション映画が多数制作されており、その中には勝新太郎の当たり役『座頭市』シリーズや、日活アクションもどきの映画もあったようだ。日本作品は面白い-というこうした下地が、きっと今の現地での特撮ブームにも繋がっているのだろう。
政府のクールジャパンもいいが、草の根の文化交流に勤しんでいる人たちがいる-。しゃく熱の太陽の下で、きょうも汗を流している「ビマX」のスタッフたちにエールを送りたい。