侮れないぞ!ウディネ極東映画祭の魅力

 北イタリアで行われているアジアの娯楽映画の祭典「ウディネ・ファーイースト映画祭」(4月23日ー5月3日開催)が今年、第15回の節目を迎えた。人口約10万人の小都市だが、今年は6万人を動員。香港スターのジャッキー・チェンや、ジブリ映画の音楽で知られる作曲家・久石譲のコンサートも行われ、会期中には町中で、関連イベントも多数行われている。映画を通して文化を伝える。映画本来が持つ魅力を具現化するこの試みは、市民にも定着してきている。

 ウディネのアジア映画好きが1999年に始めた同映画祭。他の多くの国際映画祭が映画作家主義を掲げる中、ウディネの大衆娯楽映画主義は徹底していて、なにせ第1回大会は香港アクション界の雄ジョニー・トー監督映画特集でスタート。日本からもこれまで、滝田洋二郎監督『おくりびと』(2009年に観客賞受賞)からピンク映画や新東宝特集まで。今年は山崎貴監督『寄生獣』2部作を、日本公開直後にいち早く上映している。

 それと平行して、市内各所で行われている関連イベントが充実している。最初は、00年に始まったコスプレコンテストだけだったが、街の中心広場ではアジア食材やキャラクターグッズを販売するマーケットが開設。地元の太極拳や弓道クラブのパフォーマンスもあれば、映画祭出席者の観賞疲れを癒す針やツボ押し、フットマッサージ店の出店する。

 他の大都市だったら別に珍しいことではないのかもしれない。しかしウディネは、ベネチアからも列車で2~3時間かかり、スロベニアとの国境近くという、ちょっと辺ぴな場所にある。アジア人を見かけることも、ほぼない。

 だが市民と接してみるとテレビや映画を通してアジアに強く惹かれた人が多数。すでにインターネットなどを通して独自に情報を入手している様子だ。書道教室に参加したところ、筆や墨などの道具一式をフィレンツェのお店で購入したという年配女性がいた。腕前はまだまだ初期という感じだが、墨を磨るところから精神を整え、そして用紙に向かう。その意気込みが微笑ましい。何より、日本独自の「もったいない」精神の浸透度の深さにうなった。それが風呂敷と、こけしに着物を着せてオリジナルこけしを作る講座で実感した。

 外国人にとっても、時代劇を通して知られてる風呂敷。てっきり包み方や、若者に流行のバッグの作り方を教えるだけかと思ってた。しかし、二等辺三角形に切られた古着や端切れ2組をミシンで縫い合わせて風呂敷を作るところから始めるのだ。講座を担当したのは、服飾学校の講師とファッション・デザイナーたち。日頃、自分たちが洋服を作る上で大量に出る端切れの活用方法を考えていたところ、風呂敷に出会ったのだという。講座では、「ビニール袋を捨てて、風呂敷を持ち歩きましょう」とアピール。参加者は、自分で作った風呂敷を大切に持って帰っていた。今頃、ウディネの町では、買い物に風呂敷を活用している女性が闊歩(かっぽ)していることだろう。

 一方、オリジナルこけし講座を担当しているのも、本業はファッション・デザイナー。同様に、端切れが「もったいない」と思い、人形作りに活用するアイデアを思いついたという。日本古来の、すべて木製で出来た寸胴のこけしとはちょっと違うのだが、長方形の布を巻き付けて帯をつければ、西洋人憧れの着物もどきの完成。この日の為に、「こけし」とはどんなものか、インターネットで調べてきた参加者もずいぶんといた。参加者たちが口をそろえていう。「日本は、文字やデザインなど、全てが美しいと思うわ」。

 対して、本年度のカンヌ国際映画祭では、ジャパンデイ・プロジェクトと題して、美少女アンドロイドASUNAちゃんが鎮座するジャパン・パビリオンが設置され、くまモンも参加したKANPAI NIGHTと題したパーティーが盛大に行われたという。ジャパン・パビリオンは予算の都合で一度撤退した経緯があるだけに、復活は、映画業界にとって、カンヌでの日本映画の情報発信基地が出来たことや、業界全体が一つにまとまる良い機会となったことだろう。

 だが、もうそろそろ漫画やキャラクターに頼った“クール・ジャパン”から、次の戦略に向かわなければと思うのは筆者だけだろうか。ウディネしかり、テレビ東京の「YOUは何しにニッポンへ?」しかり、海外の人の方が、さらに一歩進んで、日本文化の根底に流れる精神や風習に興味を示し、実際に触れているというのに。

 そんなことを改めて気づかせてくれたウディネ・ファーイースト映画祭…。小さい映画祭だからって、バカに出来ないゾ!と、声を大にして言いたい。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

主要ニュース

ランキング(芸能)

話題の写真ランキング

デイリーおすすめアイテム

写真

リアルタイムランキング

注目トピックス