個性的な全国のミニシアターへ行こう!

 『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』、『ミッション:インポッシブル』、『ジュラシック・ワールド』、『ターミネーター:新起動 ジェニシス』、『HERO』…。今夏の映画界は人気シリーズが並び、シネコンは大にぎわいとなりそうだ。

 だが、ちょっと待って!夏旅行のついでに、全国のミニシアターを巡ってはみませんか?昨今、取材でミニシアターを訪れることが増えた筆者は、驚きの連続ですっかり虜になってしまったのだ。

 先日訪れたのは、広島市の繁華街にある八丁座。老舗百貨店・福屋八丁堀本店(現存する被曝建物!)8階のエレベーターを降りると、和の空間に『あん』の文字やどら焼きを販売しており、てっきり洒落た和菓子店かと勘違いした。

 しかし、ここは紛れもなく映画館。河瀬直美監督『あん』の上映館なのだ。

 案内して下さったのは、運営会社「序破急」の蔵本順子社長。粋に着物を着こなし、凛とした佇まいの蔵本社長は、まるで高級旅館の女将のよう。「歌舞伎が好きなので昔の芝居小屋をイメージした空間にしたのですが、特に『忠臣蔵』が大好きでしてね。こちらには、あの松の廊下の松(の襖)もあるのですよ」と蔵本さん。エレベーター前にどーんと飾られていたのは、映画『十三人の刺客』の撮影で使用したもの。館内にはこの襖絵しかり、トイレの案内表記など、京都東映撮影所から譲り受けた大道具美術が再利用されているという。隠れたお宝がいっぱいだ。

 スクリーンは2つ。ここも「和」にこだわっており、「壱」と「弐」と表記し、館内の座席番号も「いの1番」「ろの2番」と数える。圧巻は170席ある劇場「壱」。目に飛び込んできたのはスクリーン前の緞帳と、高級応接間か!?と見紛うような、ふかふかのゆったりソファー。後方には提灯が53張に、桟敷席を彷彿とさせる畳席まである。この席で、お弁当を広げながら映画観賞を楽しむおばさんグループもいるらしい。

 内装を手がけたのは広島出身で、映画『天地明察』などで知られる美術監督・部谷(へや)京子さん。広島と言えば、広島東洋カープの本拠地マツダスタジアムもテラスシートやパーティーデッキなどユニークな席があり、野球ファン羨望(せんぼう)の球場として知られている。お客様を徹底的に楽しませようとする遊び心は、県民性なのかも?と、うなってしまった。

 そのほか「序破急」では、広島市内で「サロンシネマ1・2」と「シネツイン」も運営している。映画館ではなく“夢売劇場”を名乗る「サロンシネマ」には、最後尾に掘りごたつ席を備え、各座席のテーブルには映画の名セリフが書かれている粋な演出も。

 一方、ビルの地下にある「シネツイン」のウリは、日本初の床暖房入り。これは北海道や東北の映画館にもない設備なのだという。

 3館それぞれ個性的なのだが、共通点がある。八丁座は元「松竹東洋座」。同市・鷹野橋にあったサロンシネマは昨年、元広島東映&元広島ルーブルがあった場所に昨年移転。そして、シネツインは元「中央名画劇場」と、いずれも元映画館を新たにリニューアルしていることだ。

 一般社団法人日本映画製作者連盟が昨年12月末に発表した全国スクリーン数によると、一般館のスクリーン数が453に対し、シネコンのスクリーン数は2911。2000年までは一般館のスクリーン数の方が多かったのだが、あっという間に逆転してしまった。要因の一つが車社会。市街地にある映画館は駐車場がないために、郊外のショッピングモール内にあるシネコンに客が流れているというのが現状だ。

 そこをあえて、「序破急」の蔵本社長は街中の映画館にこだわっている。サロンシネマが移転する際、こんなエピソードがあったという。リニューアルに伴い劇場名の変更を考え、ほぼ決まりかけていたところ、常連客にお叱りを受けたのだという。「映画館は一企業のものだけじゃない。我々、ファンのものでもある」と。

 移転の際はサロンシネマのネオンサインを、ファンと従業員が街中を行進しながら運んだという。映画館を育てるのは、その街であり、観客であることを象徴するようなエピソードだ。

 そもそも映画館というのはその昔、街の人たちのコミュニケーションの場であった。その憩いの場を維持しようと。シネマ尾道(広島)や豊岡劇場(兵庫)は閉館になった映画館を市民の手で再生させ、駅前にある別府ブルーバード劇場(大分)では84歳の岡村照館長が創業1949年の歴史を守り続けている。

 そういえば、昨年12月にリニューアルオープンした豊岡劇場を訪れた際、話を聞いた現役女子大生が「シネコン以外の映画館を見たのは初めてです」と語ったことに軽いめまいを覚えたものだ。

 彼女たちにとってはミニシアターは遺産か!?

 しかし、そこを訪れてみれば、個性的な映画館を運営する魅力的あふれた人たちにも会えることをお約束する。(映画ジャーナリスト・中山治美)

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