大島優子はカメレオン女優タイプか!?
女優・大島優子主演&タナダユキ監督『ロマンス』が8月28日に公開される。同作は大島のAKB48卒業後、初の主演映画として注目されているが、鉄道ファンにとっても小田急グループが全面協力しており、心踊る作品なのだ。
何を隠そう“鉄ちゃん”の筆者は、「映画の撮影で、ロマンスカーの乗客役のエキストラ募集しているらしい」という情報を耳にし、昨年秋に参加した。あぁ、至福のひととき。
映画における鉄道シーンの撮影は日本の場合、許可を得るのは非常に困難だ。日本のダイヤは海外でも評判になるほど緻密で正確。無理難題を言う撮影隊を受け入れて、他のお客様に迷惑をかけてはいけない。撮影隊にとっても肖像権などに配慮して他の乗客が写り込まないよう注意が必要だが、世界でも屈指の乗降者数を誇る都心では至難の技。
そこで東京メトロのシーンの多くは、撮影に協力的な神戸市営地下鉄が“代役”として大活躍。日本を舞台にした香港・仏合作映画『ラスト・ブラッド』(2009年)の時は、古い丸ノ内線車両が走っているアルゼンチンまで撮影に赴いた。新幹線を舞台にしたアクションが重要だった三池崇史監督『藁の盾』(13年)は、日本の新幹線車両を導入している台湾で撮影を行ったのは有名な話だ。
今回は大島主演映画の企画を受けたタナダ監督が、物語について盟友の脚本家・向井康介に相談。そこで出たのが、“特急列車のアテンダント”という主人公の設定だった。早速、特急ロマンスカーを運行する小田急電鉄に打診したところ快諾。タイトルは小田急が特急ロマンスカーにちなみ『ロマンス』。物語も、車内でひょんな事から出会ったアテンダントと映画プロデューサーが、箱根でのプチ旅行を通して自身の日常をふと振り返るという、旅の本質を突いた内容になっている。箱根駅伝に負けず劣らずの、小田急グループを巧みに、丸ごと活用した作品だ。
筆者が参加したのは、昨年10月7日午前9時47分・新宿発-小田原止まりのさがみ63号(MSE60000形)と、同午前11時23分・小田原発-新宿着のさがみ78号の往復。2両を貸し切っての、走行しながらの撮影だ。箱根に行く設定なのに、それじゃいけないじゃん!と突っ込まれそうだが、そこはご愛嬌。時間にして約50分ずつ。その間に大島演じるアテンダント鉢子が車内サービスを行っている様子と、後輩アテンダント久保(野嵜好美)がコーヒーをこぼして客とトラブルになり、鉢子がフォローするというシーンを撮らなければならない。前日の台風18号通過の影響もあってダイヤに乱れが出ており、さがみ63号の新宿駅到着時間に遅れが出てスタッフは少しヤキモキ。
筆者に与えられた役の設定は、外国人観光客3人を同行して箱根旅行に向かう乗客。前方座席を回転させてボックス席にし、同じくエキストラに駆り出された留学中の大学生たちとグループを装う。かしこまった表情で写ってしまうのも何なので、車窓を眺めつつ、ゲームや漫画に興味があって日本を選んだという留学生たちと談笑する。まさにプチ旅行気分。
そこに、ワゴンを押しながら大島優子がやって来た。鉢子が外国人観光客にコーヒーをサーブする設定になったのだ。撮影準備中、大島は気さくに留学生たちに話しかけていた。それに普通に応対している彼ら。撮影後、思わず「彼女が誰か分かった?」と尋ねてみた。
筆者「AKB48って知ってる?」
留学生「もちろん知ってます」
筆者「今の大島優子だよ」
留学生「え、えーっっ!!」
白状すれば筆者も、なかなか大島だとは気付かなかったのだが。実はエキストラ募集時、混乱を招かぬよう出演者の名前は伏せられていた。ロマンスカーに乗車してから、主演を知った次第。それでもアテンダントの制服姿があまりにも似合い過ぎて、確証を得るまで時間を要したのだった。かの高倉健も吉永小百合も、大スターと呼ばれる方たちは、何を演じても良くも悪くも高倉健であり吉永小百合であるが、大島は何色にでも染まることができるカメレオン女優タイプなのかも。
それから約1カ月後の同年11月8日。小田急新宿駅でのラストシーンの撮影にも参加した。撮影は、終電から始発の間。日頃、味わうことのない静まった駅構内は新鮮。改めて感じたのは駅の清潔さ。ホームにゴミが落ちていたり、時にはネズミが走っている駅もあるが、それが一切ない。撮影を横目に、一心不乱に清掃しているスタッフに心の中で頭を下げた。ちなみにこのシーン。映画では夜中に撮ったとは思ぬような、清涼感すら感じさせるシーンに仕上がっているのでご注目。
さてご存知のように箱根は、火山活動の影響で観光に影響が出ていると言われている。ならば憧れのロマンスカー展望席は今が狙い目か!?と不謹慎ながら、旅の計画を立てたくなった。そして、映画『ロマンス』のロケ地巡りといきましょうか。
(映画ジャーナリスト・中山治美)