命をけずって打ち込む覚悟です!
「命をけずらなければ、人の心を打つような作品は書けない」
先月の三越劇場『深川の鈴』のセリフは、私を奮い立たせました。師である(初代水谷)八重子先生の代役として演じて以来38年ぶり、役の年齢が三十前と、実はお話をいただいた時、ちょっと抵抗がありました。でも、お稽古に入る前、当時の先生の年齢がいまの私よりも上だったことに気がつき、七十過ぎてなお若々しさを保っていらした先生を思い、私も期するものがありました。
千穐楽が終わる頃には名残惜しくて、とても大好きな芝居になっていました。ぜひ、また演じさせていただきたい!
今月6日に浅草寺で、市川月乃助さんの二代目喜多村緑郎襲名のお練りがありました。初代となる喜多村先生、その最晩年にご一緒させていただくことができたことを本当に懐かしく思い出します。
9月に新橋演舞場と大阪松竹座で襲名披露公演が行われますが、今回の『婦系図』は先生の細やかな指示をもとにした台本での上演になりますので、一層新鮮な気持ちです。『深川の鈴』に続いて、月乃助さんと…いえ、緑郎さんと命をけずって臨みます。
そして、お練りには9月に新派入りして初舞台を踏む、春本由香さんも参加。なんで尾上松也さんの妹が?と疑問の皆様、由香さんは新派の立派なサラブレッドなのです。新派で名脇役といわれた春本泰男さんのお孫さん。息子の尾上松助さんが歌舞伎の世界に入られ、新派女優の河合盛枝さんと結婚、松也さんと由香さん兄妹が誕生し、歌舞伎と新派の世界へ。
新派に光が射し込み、新たな蕾が生まれます。楽しみですね。私ができることは喜多村先生や先人の先生方、八重子先生から授かった芸を、舞台で命をけずって繋げること。
30日にはシネマ歌舞伎のトークショーで弟(十八世中村勘三郎)のことを話します。「婦人公論」創刊100周年イベントの〈次の100年へ伝えたい名演〉とのこと。命をけずって先にいった弟…。まるで私、伝道師のようになってますかしら(笑)。
波乃久里子でございました。