夏八木さん遺作の是枝監督が秘話明かす
映画やテレビドラマなど多くの作品で名脇役として活躍した俳優・夏八木勲(なつやぎ・いさお)さんが、すい臓がんのため11日午後3時22分に神奈川県鎌倉市内の自宅で死去していたことが12日、分かった。73歳。
関係者によると、夏八木さんは昨年11月、体調不良を訴え病院で診察を受け、すい臓がんが見つかった。同時に余命も宣告されたが、周囲には病気を隠し仕事を続けた。告知は、フジテレビ系ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」の撮影の最中で、終盤の撮影で体調を崩したものの、周囲につらい表情を見せることなく最後まで出演した。
ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」の演出を担当した是枝裕和監督(50)は、撮影現場で体調を崩した夏八木さんから病状を伝えられていたという。だが、「芝居がやりにくくなると申し訳ない」という本人の意向で、周囲に病状を伏せたまま撮影を続行した。
夏八木さんは主人公(阿部寛=48)の父で、故郷の長野で倒れ、長期療養中という役どころ。最終回は葬儀のシーンだったが、ためらう監督を「良い予行演習になるから」と笑顔で激励。画面に映らないと分かっていながら、遺体役を務めた。
阿部は「僕の目線のためだけに来て、ひつぎの中に入って下さったこと、心から涙が出ました。最後の作品に共演させていただけたこと、一生の誇りに思います」と感謝した。
今年1月に、夏八木さんと渋谷で食事した是枝監督は「『撮影の途中で倒れてしまい、ご迷惑をおかけしました』と深々と頭を下げられたその姿に、プロの役者としての厳しい覚悟を感じました。役者夏八木勲の最後の作品にかかわれたことを、心から誇りに思います」と名優に最敬礼した。