100人のマンガ制作集団…ネーム教室が進化 説得力持たせるためヒット作狙う
マンガのストーリー作りに特化した教室がある。東京ネームタンクでは、ネーム(ふき出しやコマ割り、絵の構図を入れた作品のコンテ、設計図)の指導を通して、マンガの構造理論を広めている。昨年末からは、これまでの受講生を中心に制作集団を築き、電子書籍ストアや出版社に新作を届けるまでに進化。代表のごとう隼平氏(40)は「教室だけではなく、制作するという段階に入りました。ついにここまで来たか、という感じです」と、手応えを語った。
「ネームできる講座」は対面やオンラインで実施。これまで1200人超、プロ作家からも約200人が受講した。修了者は専用サイト「ネームタンクラボ(研究室)」に所属し、情報交換などに活用されてきたが、商業作品への意識が強い約100人で制作集団を形成。「マンガ作りはつらい、苦しいというイメージから脱却したい。皆で意見を出し合って、企画を練って、こちらから売り込んでいく。作家がひとりで編集者と向き合う形しかない状況を変えたい」と狙いを説明した。ストーリー作りだけでなく作画体制も構築。3月から電子書籍ストア・ブックライブで先行配信される、テレビアニメのコミカライズ『sk∞エスケーエイト』では、協力の形で参加している。
同教室は15年秋、新宿で開講。ごとう氏は09年から11年に『銀塩少年』を「週刊少年サンデー超」などで連載した漫画家だった。当時、編集者から幾度もダメ出しを食らい、ネームに苦しんだ。「なぜダメなのか、どう乗り越えればいいのか分からない。漫画学校を出た作家仲間も同じことを言う。誰も物語の構造を知らないのではないか」。熟考を続け連載終了後、ついに形が見えてきたという。
「連載をして満足した部分がありました。もし新しく連載を始められても、先が想像できたんです。それよりも、この理論を広めて、より多くの人から作品が生まれる方が面白いと思いました」と、教室設立を決意。プロ作家の受講者が多かったことで「皆が悩んでいる、僕と一緒なんだと思いましたね。物語の構造を教えてくれる場所は、どこにもなかったですから」と、自信を得た。
教室は“ひとりひとりに代表作を”の信念を掲げ、プロ志望者以外にも、作品作りを導くことに価値を感じる。「みんな個性や人間性が違う。そんな作品全てを僕は読みたいんです」とごとう氏。SNS上での炎上騒動を目にする度、言葉を超えたマンガの魅力を再認識するという。「もっと構造が広まってほしい」と、YouTube等でも理論を紹介。研究室を通じて、理論が更新されていく好循環にも支えられている。
マンガ界の現状を「電子レーベルの急増により編集者不足の状況が続き、その質も落ちています」と語る。編集面の弱体化を危ぐするからこそ、新しい制作集団への期待は大きい。旧態依然である作家側の待遇向上を目指し「説得力を持たすためにヒット作を出さなければ」と、発言力を高める意欲を燃やしている。“ひとりひとりに代表作を”の原点を忘れず、さらなる飛躍を目指す。(デイリースポーツ・山本鋼平)