マンガ大賞2位「チ。」あらがえない“禁断の果実“感…2位でもすごいんです
「2位じゃだめなんですか」。ちょっと懐かしいフレーズが頭をよぎったが、2位であっても、ぜひ手にとってもらいたい-。
3月16日に「マンガ大賞2021」が発表された。大賞は「週刊少年サンデー」に連載中の山田鐘人氏が原作、アベツカサ氏が作画を担当した「葬送のフリーレン」。次いで2位となったのが「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の魚豊氏の「チ。-地球の運動について-」だ。
独特なタイトルで、サブタイトルがなければどういった種類の内容なのか見当も付かないが、「地動説」を扱った作品。15世紀の前半、ヨーロッパ・P王国が舞台となっている。「地動説」で知られるのはコペルニクスが15~16世紀、「それでも地球は動く」(この言葉については言った、言わないも含めて諸説あり)のガリレオは16~17世紀の人物なので、それよりも以前の物語ということになる。
C教(あえて具体名は記していない)がすべての基準となっている世の中では「天動説」は当然の常識。しかし、主人公たちは運命に導かれるように「地動説」と出会い、「天動説」よりも矛盾のない、その美しさに魅せられていく。
C教の教義に反するような「地動説」の考え方は異端とされ、研究していることがばれただけでも死罪になりかねない。流されておけば平穏無事に暮らせるのに、主人公たちは真実を追い求めずにはいられないのだ。
このあらがえない“禁断の果実”感が読んでいる側を引きつけて放さない。異端審問官はC教の名の下に、あっさりと命を奪うので、物語に常に命がけの緊張感がみなぎっている。
さらに主人公たちが“欲望に忠実”なのがいいところ。太陽を中心に据えた天体の美しさを追い求める姿は、崇高なものではなく知的欲求を抑えきれない傲慢(ごうまん)さにあふれている。普段、流されながら生きていると、欲望に命をかけてしまう姿につい感情移入してしまうのだ。
こういう作品に出会うと、つくづく日本のマンガの懐の広さを感じる。そもそもの分母の数が多いということはあるが、やはり「何でもあり」のバラエティーに富んだ作品が出てくる。具体名は出さないという気遣いはあるが、宗教であろうともエンターテインメントの要素にしっかりと組み込まれている。よくもまぁ思いつくものだと感心すると同時に、いち読者としてありがたいと思う。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・澤田英延)