「招き猫」の寺・豪徳寺で考えた昨今の猫ブーム 飼い主の“癒やし”と“努力”

 現在、放送されているNHKの大河ドラマ「青天を衝け」に幕末の大老・井伊直弼が登場している。その直弼にゆかりがある曹洞宗の寺「大谿山 豪徳寺」が、東京都世田谷区にある。昨今は空前の猫ブームだが、自分なりに考えてみたいことがあり、一説には招き猫発祥の地とされるその寺にいってみた。

 同寺発行の印刷物によると、元々は貧寺だったが、ときの和尚が猫を愛して飼いならし、自分の食事を与えてわが子のように育てていた。ある日、タカ狩り帰りだった直弼の祖先、井伊掃部頭直孝が、寺の前を通行しようとすると、1匹の猫がうずくまり、手を挙げて招いていたという。その様子に門内に入ったところ、夕立が降り出し、雷雨になり、難儀を避けることができた。それが縁となり井伊家の菩提(ぼだい)寺となって今も栄えている。恩を感じた和尚は、その猫の死後に墓を建てたが、姿形を作ったものが「招福猫児(まねぎねこ)」と呼ばれるようになった。

 豪徳寺内には、招福観世音菩薩(ぼさつ)(招福猫児はその眷属)を祭る「招猫殿」がある。その横には、願が成就したお礼として、今も数多くの「招福猫児」が奉納されていた。何も持たず、右手を挙げる、大小の白い招き猫の群れを目の当たりにし、私は現在、960万匹以上飼育されている猫の何割が、幸せにその生涯を終えることできるのか、と思いを巡らせていた。

 理由は獣医師でもある友人の一言だった。「一般社団法人ペットフード協会」による「令和2年全国犬猫飼育実態調査」によると、ペットを飼う理由の上位に「ペットを飼っている家庭にあこがれていたから」というのがある。わが家にも今年3歳になるオスのスコテッシュホールドがいるが、私が飼い始めた理由もそれと大差がない。血統書付きで人気がある種類の猫を飼うことで自己満足に浸りたい気持ちがどこかにあった。だから飼い始めた当初は、猫を飼っているという知人、友人たちに「何の種類だっけ?」と聞きまくっていたものである。

 ところが友人の獣医師に同じ質問をしたところ「猫は猫。種類に関係なく、家族である猫にとって幸せな環境で、最期まで暮らせるかだけだよ」との返答だった。この言葉に、飼い主は一度飼い始めたら、最期の瞬間まで愛情を注ぎ続ける覚悟がなくてはいけないと思った。

 猫を飼うのにかかる費用は、並大抵ではない。先ほどの実態調査によると、猫の平均寿命15・45歳から算出して、生涯にかかる必要経費は123万5000円余りになる。1年で8万円ほどの計算だ。新型コロナウイルス感染症拡大における国民1人に対する定額給付金10万円と大差がないほどの金額である。また、猫は環境の変化に敏感で、慢性腎臓病になりがちなだけに「散歩しないでいい犬より、飼育が簡単」という安易な考え方で、家族の一員に迎え入れてはいけない。途中で飼育が難しくなったからといって、放置するなど言語道断だ。

 家にいる猫たちは、飼い主に“癒やし”という最高の福を招いてくれる。招き猫の寺ならぬ招き猫の家にするための努力は惜しんではならない。

(デイリースポーツ・今野 良彦)

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