椎名林檎カバーのアニソン名曲「恋の呪文はスキトキメキトキス」 小林泉美がディスコ調に込めた“ひとひねり”
ミュージシャンの小林泉美(64)はアニソン界では1981年発表の『うる星やつら』オープニング曲「ラムのラブソング」の作曲で知られているが、他にも印象に残る作品を残している。近年は再び日本での活動を行っており、『さすがの猿飛』の「恋の呪文はスキトキメキトキス」(1982)、同題名のオープニング曲「ストップ!!ひばりくん!」(1983)を中心に、当時と現在について聞いた。
■「ラムのラブソング」作曲で有名
小林は東京音楽大在学中の1977年にレコード・デビュー。小林泉美&Flying Mimi Bandを率いてアルバムを発表、CMなどへの楽曲提供に加え、キーボード奏者として高中正義や松任谷由実のツアーに参加した。アニソンでは「ラムのラブソング」の他にも、椎名林檎など多くのカバーを呼んだ「恋の呪文はスキトキメキトキス」の作曲でも知られている。
「『うる星やつら』の岡正プロデューサーから指名を受け、漫画を読んで作曲しました。王道のディスコスタイルですけど、ちょっとひとひねりしようと、エンディングに3回繰り返す“スキトキメキトキス”は8分の7拍子にしました。普通は4分の4拍子か4分の3拍子にするところですけど、最後だけ8分の7拍子を繰り返したところが結構ウケているみたいですね。テレビ番組の『ソウル・トレイン』にかかっていたような70年代の音楽、アース・ウインド&ファイアーのような感じを意識しました」
小林は1曲あたり10分程度という作曲スピードの持ち主。しかし当時は多忙で遊ぶ時間はおろか、睡眠時間も不足していたという。「仕事量が多くて、早くこなせば睡眠時間が取れる。あの頃はバブルがはじける前でレコード、宣伝、出版業界にお金があり、とりあえず、とにかく作ろうという時代でミュージシャンは忙しくかったですね」と振り返った。そして翌年、『ストップ!!ひばりくん!』を手がける。
「当時の私はリベラル的な受け止められ方をしていたような気がします。自分でアレンジをして、男性に指示を出して曲を作る女性はとても珍しかった。『ひばりくん』は当時はジェンダー的に衝撃的なキャラクターだったので、私に注文が来たようです。シンガーソングライターはたくさんいましたが、スタジオでアレンジして譜面を書いて渡す女性はあまりいませんでした。知り合いでは矢野顕子さんくらいでしたね」
作品に合わせて、曲調も一変させた。
「今までとは違うものにしようと、オープニングは普通の曲でしたが、エンディング(「コンガラ・コネクション」)は思いっきりロックにしました。(ギターで参加の)布袋寅泰さんは彼のデビュー前から知っていたので、その時あまり有名じゃなかったと思うのですが『ちょっと弾いてよ』と声を掛けたのが、みるみるうちに有名になって。10年程前にロンドンのスタジオで再会した時は“おお久しぶり”とあいさつしましたね」
1985年に渡英して音楽活動を続けたが、88年の出産を機に仕事をセーブ。息子が自立し、2016年から再びミュージシャンとしての活動を本格的に再開した。昨年11月にはテレビアニメ『東京ガンボ』の主題歌、最上もが「万物流転」の作曲を担当。今年1月にはリズム遊び絵本「エイト・オー・エイト 声と手拍子で遊ぶ絵本」を発表した。拠点は今もロンドンで精力的に活動中。現地での状況を聞いた。
「7つのバンドに携わっていて、スコーピオズというアフリカのバンドが一番評判いいですね。アビー・ロードで録音したものがもう少ししたらアルバムになりますし、11月のロンドン・ジャズ・フェスティバルに出演予定です。アフロビートだと昔のフェラ・クティのようなのを思い浮かべるかも人が多いかもしれないけれど、このバンドはノーザン・アフリカン・ジャズという、いわゆるエチオピア・ジャズに似ているかもしれない。スーダンファンクの感じで、メンバーはジャマイカ、日本、ポーランド、イギリス、スーダンから。もう一つは古き良き美しいレゲエのバンドです。UKニュー・ジャズ、イタリア人のネオ・ソウル、フランス人で昔ながらのシャンソンを歌っているバンドにも入っていて、ほかに3つあるので忙しいんです」
常に温和な表情で柔らかな語り口が印象的な小林。「私は音楽しかできませんから。周りはどんどん亡くなっていますし、残り少ない人生を全うしないといけない。短い間にどれだけエネルギーを出せるかに集中しています」。穏やかな口調だからこそ、その言葉には一層、すごみを感じさせた。
■ AATA「真夏のせい」に参加、息子は音楽プロデューサーSKYTOPIA
小林泉美は今夏リリースされたAATA(あ~た)の配信シングル「真夏のせい」にオルガン奏者として参加した。ロンドンで出産した息子は、現在東京でSKYTOPIAの名で音楽プロデューサーとして活動中。帰国していた際、息子の仕事場から「真夏のせい」が耳に入り「すごく感じのいい曲」とオルガン参加を希望した。そのプロデュース作業に触発され「今はDAW(Digital Audio Workstation)を教えてもらって新曲をいくつか作っています」と、新しい学びにも取り組んでいる。なお、AATAは9月3日に初のワンマンライブ『NEO』(午後6時30分スタート、代官山SPACE ODD)が開催予定となっている。
(よろず~ニュース・山本 鋼平)