ラノベ、ヤングアダルト、児童書などに特化の異色古本屋 「10代のヒミツキチ」新設から半年の成果とは
古本屋の大吉堂は今年6月2日、大阪市阿倍野区に移転オープンした。YA(ヤングアダルト)、ライトノベル、児童書、SFなど「10代の心(実年齢問わず)を刺激する本」を専門に扱う同店は、クラウドファンディングで資金を集め、子供たちに自由に使ってもらいたいとカウンターテーブルや四角い机を設置した「10代のヒミツキチ」スペースの新設に伴う移転費用を捻出。店主の戸井律郎さん(48)に、この半年間の成果を聞いた。
テスト勉強に励む高校生、スマホ画面を見つめる者、友人同士でおしゃべりを楽しむ者、テーブルに置かれた無料の駄菓子を口に運ぶ小学生、ぼんやりと座るだけの大人の姿も。思い思いに活用されている状況を、戸井さんは「もっと時間がかかると思いましたが、多くの方に自由に使ってもらえています」と目を細めた。読書、本への興味を増やすこと、来店者同士のつながり、店主との交流などの期待は「押しつけはしたくない。僕自身がされたくない性格ですので」と、持たないよう努めてきた。スペースは店の奥にあり、戸井さんが座る入り口横のレジカウンターからは死角になる。声かけを控え、適度な距離を保ち、過干渉しないよう見守っている。
意外だったのは中学生の利用が少ないこと。戸井さんの経験から「小学生は児童館などがあり、高校生は自分で行きたい場所を選んでいく。中学生が一番中途半端な年頃だと思っていたので」というが、今は「それも自分の勝手な期待でした」と気にしないよう心がける。さらに予想外の変化もあった。「前の店舗は狭くて子供が騒ぐとイラッとしてしまいました。そんな感情はこれまでで初めて。自分でも驚きました」。約103万円を集めたクラファンを活用した移転後、そんな感情は解消され「やはり広さは大事ですね。心にも余裕が出てきたように思います」としみじみ。本棚の間に読書用の長いすを用意するなど、ゆとりを大切にしている。学生や子供たち、大人までもが「ヒミツキチ」を利用し、店を出ていく様子を「町や地域とつながっている感じがします。移転して良かった」と語った。
小学校5年生での転校を機に、図書室や図書館が好きになったという戸井さん。高校時代に藤本ひとみ、栗本薫らライトノベルを愛読した。大学卒業後、堺市の児童館で働いている時にYAの魅力にも気付いた。「10代向けの本を集めた店を」という夢をかなえるため、2014年に児童館を辞め大阪市住吉区で古本屋をスタート。数度の移転を経て阿倍野に店を構える。当初は漫画や実用書も扱ったが2019年に現在のラインアップに特化し、業界内外から注目を集めるようになった。遠方から来客が訪れ、本棚をSNS等で公開すると「懐かしい」「私の黒歴史だ」という声が寄せられこともあった。
戸井さんは「ライトノベルはアニメ化されても5年もたてば入手しにくくなる。児童書は過去の名作が繰り返し読まれるので、新刊が出にくくなっている。このジャンルの魅力を伝えていきたい」と熱く語った。売り上げは「ギリギリ」というが公立図書館から「懐かしいラノベ」をテーマに10代向けの推薦図書を選ぶ依頼が来るなど、活動の幅が広がりつつある。温かいまなざしと、たぎる情熱を共存させて、若き心を刺激していく。
(よろず~ニュース・山本 鋼平)