【漫画】読むと身体が痒くなる!?ご都合主義を排除 気持ち悪い描写が魅力の短編『黒い街』
漫画ジャンルの中で不動の人気を誇るホラー作品。心霊、都市伝説、人怖と、さまざまな特徴を持つ作品が次々と誕生する中で、独自のホラーカテゴリーを開拓したのが『黒い街』という漫画だ。作者は、ちばてつや賞でヤング部門期待賞(2019年)や国際コミック・マンガスクールコンテストにてバンド・デシネ部門賞(2021年)を受賞した漫画家の勝見ふうたろーさん。この作品は、細部まで書き込まれた緻密な描写と、グロテスクな表現が散りばめられ、「読むと痒くなる」「気持ち悪さが面白い」という反響を得ている。今回はその作品と、作者のインタビューをあわせてご紹介する。
勝見さんが、漫画を描きはじめたのは8年ほど前。「中学生のときに、友人が漫画を描く姿を見て、ついつい描いてみたのが始まりです。いまは、漫画だけではなくて、『こんなことを表現したいけど、漫画ではむずかしい』と思えば、歌や小説という形でも発表しています」
昨年11月にSNSにて発表された『黒い街』。この作品は、勝見さんが影響を受けたという松本大洋、鶴田謙二、町田洋、平庫ワカといった漫画家と同じく、繊細な筆致が特徴的だ。創作のきっかけになったのは、勝見さん自身の学生時代の思い出だという。「大学時代に過ごしていた下宿の近くには、坂道の住宅街があって、夜そこを散歩するのが趣味だったんです。そのとき、ふと『住宅街って、アリの巣みたいやな』と思ったのが、創作のきっかけですね。そこから、発想を膨らませながら、人間の身体の中にアリの巣があって、さらにそんな人間たちが集まって街を作っているという構造が面白いなと」
この作品は、思わず目を伏せたくなるようなシーンや、気持ちが重たくなるようなエピソードが随所に差し込まれていく。その意図について、勝見さんは「私が臆病で、真面目な性格ということもあって、作品も“ご都合主義の綺麗事”になりがちなんです。それだと面白くないので、できるだけ、心がひりっとするような要素を盛り込んでいこうと。その結果だと思いますね」と話す。
今回、紹介したホラー要素の強い作品のほか、ジャンルに関係なく意欲的に作品を発表している勝見さん。今後の展望について、「いま、富山県に住んでいるので、地方や田舎というモチーフから発想した作品を描いてみたいですね。もっと人間らしく、きれいも汚いもひっくるめて『美しい!』と笑い飛ばせるような、小さくて深い世界を描けるようになりたいです」と話してくれた。勝見さんは、どのようなリアリティーやアイデアを持ち寄り、地方や田舎を描いてくれるのか。今後も注目していきたい。
(よろず~ニュース特約・橋本未来)