落語家生活40年の桂あやめ 強盗被害、出産、受賞、異色イベント挑戦- 挑み続ける女性落語家の今後は
1982年に五代目桂文枝に入門した落語家・桂あやめさんが今年、落語家生活40周年を迎える。
落語は男がやるものと至極当然としてきた世界で、当時としては数少ない女性落語家として試行錯誤、切磋琢磨、多大なる貢献をしてきた彼女が3月13日に神戸の喜楽館、6月5日に大阪の天満天神繁昌亭で40年記念落語会を開催する。今も飽くなき探究心を持って様々なことに挑み続けるご本人に、お話を聞いた。
ーー40年を迎え、振り返ってみていかがですか?
桂あやめ(以下あやめ):この前、ふと考えたら、10年ごとに色々あったなぁと。10年目の時は強盗に殺されかけたけど(1992年、スナックママ連続殺人事件の指名手配被疑者に襲われた)、それがきっかけとなって東京での活動が増えるようになったり、それまでの花枝から今の名前に襲名することが決まったり、20年目の時は娘を産んで、20周年落語会で披露した「たちぎれ線香外伝:小糸編」で芸術祭優秀賞をいただきましたし、30年目の時はプライベートで大きなことは起こらなかったですが、宝塚歌劇が好きな落語家たちが集まって行なっている会「花詩歌タカラヅカ」とジャンルを超えた女性芸人たちの大人向けイベント「女芸人キャバレーナイト」がスタートしました。
今年、40年目を迎えますけど身辺で何か起こるのか、起こらないのかわからないけれど、落語家として大事な年であることは確かですね。
--女性落語家としての40年というのも、大きな意味があったと思いますが。
あやめ:現在、上方落語界では女性落語家は20人以上になり、女が落語をやることに対して誰も驚かなくなってきましたね。これは凄いなぁって思います。大きなきっかけは女性落語家を目指す主人公を描いたNHKの連続テレビ小説「ちりとてちん」。それ以降、落語をテーマにした漫画などが増えたのも弾みがついた。「うちの師匠はしっぽがない」は、天満天神繁昌亭でコラボ落語会をやって、普段、寄席にこない方たちも足を運んでくださったりして大いに盛り上がっていましたし。
私が入門した当時は、女が落語なんてあり得へんみたいな空気が落語家にもお客さんにもあって、女が出てきたら“ギョッ”みたいなことがあったし、古典落語をやってもどれが女でどれが男やねんみたいな、探りながら聞いてはったこともありましたけど、今はホンマになくなってますね。
今、神戸新開地にある喜楽館の番組編成(出番を決めること)の一人をやってますけど、「今週の出番は、女の人が出てへんから色気もないなぁとか、おっさんばっかりやから、女の人を入れよか」って言葉が出るくらいで、つくづく時代は変わったなぁと思います。
それに最近、私の創作落語「義理ギリコミュニケーション」を、桂福丸くんという若手の子がやらせて欲しいって言うてきて、私の落語を男性がやってくれる時代が来たのかぁと嬉しくなりました。
--今回、3月13日に喜楽館で行う40周年記念落語会は、どんな内容になっていますか?
あやめ:私の地元の神戸でやるということで、落語に加えてこれまでやってきたイベント「女芸人キャバレーナイト」と「花詩歌タカラヅカ」、そして20年以上やってきてます林家染雀くんとの音曲漫才ユニット“姉様キングス”を全部お見せしたいなと思っていて、だからタイトルも「あやめまつり」としています。
めぐまりこちゃんのものまねと私のものまね、姉様キングスの40周年バージョン、「花詩歌タカラヅカ」でもお世話になっているリピート山中さんのギター漫談、神戸出身の桂かい枝くんにも出ていただいてだいてチーム神戸って感じで盛り上げたいなと思っています。
前半の私の落語は、35周年の時に古典落語の「小倉船」をベースに創った「パノラマ落語・龍宮界竜都」をアップデートしてやります。35年の会は新世界にある大衆演劇がメインの朝日劇場でやったんですけど、劇場がすっぽん(小さなせり)や回り舞台があったので、それを使って芝居噺の形でやりました。今回は喜楽館の劇場構造が宙乗りに対応できることがわかったので、私、空を飛びます(笑)ぜひケレンを入れた噺を楽しんでほしいです!
後半は「女子会平家物語」という、平時子や祇園女房、常盤御前の3人の生まれ変わりが現代の神戸でお酒を飲みながら過去を振り返るって内容で、10年前に放送されていた大河ドラマ「平清盛」に触発されて創ったんですけど、内容的に古くなって長いことやってなかったんですが、今、放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に平清盛が出てくるし、アニメでもやってるし、タイミングがいいなと思ったのと、平時子は清盛を慕って神戸に来た人やし、是非とも地元でこの噺をやりたいと、仕立て直しました。
そしてちょっと先ですが、6月5日(日)には大阪の天満天神繁昌亭でも40年記念落語会を行います。まさにこの日に五代目の桂文枝から弟子にしてやると言われた日に会ができるのは本当に嬉しいです。こちらは落語ばかりの日にして、2席をやらせていただきます。
1本は、ある大阪にゆかりのある作家さんの文芸作品を落語にしようと思ってまして、鋭意創作中です。もう1本は、緊急事態宣言中や、まん延防止等重点措置中に3本ほどコロナをモチーフにした落語を創ったんですね。その中の1本をやりたいなと思ってます。
--これからの落語生活は?
あやめ:もちろん落語家としては古典も創作もやり続けたいですが、私としては文学作品を落語にしていきたいなぁって目標があって。特に女性を描いた作品を私なりの解釈や視点で創っていきたいですね。
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常にアップデートをしてきた桂あやめさんの40年の落語家人生の集大成の落語やそのほかの芸をぜひナマで堪能してほしい。
(よろず~ニュース特約・仲谷 暢之)